最後の犠牲者

 人々は蜘蛛の子を散らすように駅から逃げて行った。エディは素早く、また無尽蔵の体力を持っているのでいくらでもそれを追いかけることはできたが、一人一人追いかけて殺して回るのは非効率であり、次を最後にして今日この場での活動は切り上げるべきである、と判断した。


 ベビーカーに乗せられたまま置き去りにされていた一人の赤ん坊が、エディの手で頭を割られた。三十六人目の犠牲者だった。その子の名前は庄田猛留しょうだたけると言って、男の子で、生後三ヶ月だった。母親の庄田留美子しょうだるみこに連れられてそこに来たのだが、留美子はベビーカーを放り出して一人逃げ延びていた。ただそれだけだった。そして、エディに出会った。


 猛留を殺害した後、エディはその駅から、そしてその街から忽然と姿を消した。


 それから三ヶ月後のことである。三ヶ月前に自分が為した振る舞いについて、夫から、義母から、そして実の父と母からさえ非難を浴びて耐えきれなくなった留美子は、例の駅のデパートの屋上からその身を大地に向けて投じた。ぐちゃっと鈍い音を立て、血と肉の染みが大地に広がった。幸い、下に人はいなかった。ただそれだけだった。そして、彼女は確かにエディに出会っていた。


 やがて、その事件の日から十年の歳月が過ぎた。現場の駅には献花台が今もあったが、花を供える人の数はだいぶ減っていた。エディはまだ、現れない。従って、三十七人目、最後の犠牲者となったのは庄田留美子であると、一般には広く信じられていた。

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