【ヤクザと実力行使】

 がらんとした家に一人残り、異様なまでの寂しさが俺を襲った。

『人と関わると、これだから嫌なんだよ』と思ったが、これで全て自分のやりたいように存分にできると思うと、ものすごい解放された気分にもなった。

そして、機材部屋に行き、火咲の映像を加工した時に卓三に頼んでおいた、USBの中を確認。

結果、火咲に覚せい剤を売っていた売人が神島と言う暴力団と関係する男だと分かった。

さっそく俺は火咲のスマホのゴーストアプリから得た神島の電話番号に電話してみる。

 呼び出し音が三回なった時点で繋がった。しかし無言。

「もしもし。ここに電話すれば手に入らないものが手に入るって聞いたんだけど・・・」

 少し間を置き、低いじゃがれた声が耳に入った。

「誰の紹介だ?」

「火咲道也」

 俺が間髪入れずに答えると、男の警戒心は強まった。

「火咲?火咲が今どうなったか知ってるか?」

「え?六本木の何つったか・・・とにかく在籍するホストクラブの店長だと思うけど・・・」

 すると神島の声が若干安心したような声になった。

「名前は?あだ名でもいい」

「国定連。本名だ」

 俺はこいつには薬以外にも重要なことを頼むことになると思ったので、とりあえずの信用を得るためにあえて本名を名乗った。すると神島は若干驚いた感じで返してきた。

「ほう・・・で?うちはテン八でサンゴウだ。いくら欲しい?」

「え?俺は初めてだから、よくわからないんだけど。とりあえず六回分は欲しい・・・」

 神島は鼻で笑った。

「テン八で約二十回分はいける」

「あっそうなんだ。じゃあテン八?で。あと初めてなもんで、注射器とかもできれば欲しいんだけど・・・」

「初めてだからサービスしてやる」

「ありがとうございます。あのできれば注射器、二つもらえませんかね。なんか始めは失敗しそうで・・・」

 神島がまた鼻で笑った。

「じゃ一応十個やる。三分後に電話くれ」

 俺が礼を言う前に電話が切れた。俺はきっちり三分後に電話をすると、やはりピッタリ呼び出し音三回で電話に出た。

「で?お前今どこにいる?」

「西東京市。えっと住所は・・・」

「そこまで言わなくていい」

 神島はその後、取引場所と時間を指名してきた。

場所は環八通り沿いにあるホームセンターの駐車場。時間は午後三時。

電話を切った後、俺は場所をネットで調べたが、そこは防犯カメラが無く、警察も警戒するような場所ではなかった。

そして、食事や色々準備をして、午後二時には家を出た。

 三時十五分前に駐車場に到着。平日の午後と言うことで警備員も居なく、駐車場はガランとしていた。

俺は入って入口とはちょっと離れた所に車を停め、着いた報告と車の特徴などをメールした。

 するとすぐに電話がかかってきた。

「入り口近くのグレーの軽に居る。ノックはしないで自然に車に乗ってこい」

 それだけ言うと電話は切れた。俺は早速金を持って外に出て、店の入口付近まで行ったがそれらしき車が見当たらない。一台だけ天井に梯子を積んだ町の電気屋にしか見えない軽自動車が停まっていた。一瞬悩んだがグレーの軽はそれしかなかったので、俺はその車の助手席に乗り込んだ。

 神島の服装は薄いグリーンの作業着で金髪。頭にはタオルを巻いて、どう見ても電気屋にしか見えなかったが、サングラスだけが高級なブランドで若干浮いて見えた。

 神島は前を向いたまま言った。

「あんたが国定さんか。金は?」

 俺は封筒に入った金を渡す。神島は中を確認した後に、ここのホームセンターのビニール袋に入った箱を俺に差し出した。俺はそれを受け取り、聞いた。

「すまん。これって注射器で使う時、どうすればいいの?」

 相変わらず神島は前を向いたままで俺を見ない。

「初めだから一回分は〇・〇三グラムくらい。大体小さい耳かき一杯分を水で溶かして注射器に入れて血管に打つんだよ」

「なるほど。了解。ありがと・・・あっそうだ。俺さ、あとダイナマイトが欲しいんだけど誰か紹介してくれない?」

 神島が驚きの表情を見せ、初めて俺を見た。

「はぁ?あんた何を言ってるんだよ?そんなもの何に使うんだよ」

「いきなりで申し訳ないんだけど、俺はあんたと信頼関係を築いている時間がないんだ。だから本名も言うし、住所だって何だって教える。もしあんたに不利なことが起きたら俺を誰かに殺させたって構わない。とにかく早急にダイナマイトが欲しいんだよ。それも俺が持って走れる最大量くらいな量を。何とか頼めないかな?金はいくらでもだすよ。って言ってもあれか、とりあえず一回につき一千万は用意できる。誰に頼むか知らないけど、金の振り分けはあんたに任せるよ」

 神島は再び前を向き腕を組んで、一瞬何かを考えたようだった。

「ダイナマイトの使い道を正直に教えろ。あとシャブを打ってダイナマイトを使うとしたら断固としてお断りだ!」

 さすが売人。頭の回転が速いなと感心した。

俺は、この覚せい剤は大事な人間を芸能界に復帰させるために、そいつを嵌めた連中に使うことを話し、ダイナマイトは自分の復讐のために全部身に着けて、ある場所に突っ込むことを話した。

 すると神島は突っ込む場所について聞いてきたので、俺は確固たる決意で答える。

「それは教えられない。なぜなら、これは俺の命をかけて絶対に成功させなければいけないことだから。さっきも言ったけど、もしあんたらに迷惑がかかったら、その時点で俺を殺せばいい。もしそっちで色々勝手に調べて、俺の計画があんたらによって中止になったってことがわかったら、俺は全力をあげて、あんたとそのバックにいる組織を潰しにかかる。一人の人間が命を掛ければ、何人かは必ず道ずれにはできることを覚えておいて欲しい」

「わかったよ。場所は聞かない。っていうか、あんたマジで言ってんの?頭おかしんじゃないの?」

「俺は元々死ぬのが怖くないから、ある意味頭はイカれてると思うよ。でもだからこそ警察に掴まろうが死刑になろうが構わないから、何でもできるんだよ。あんただってこんな商売してるってことは、何かしらどこかに不満があるんだろう?でも本能で、生きるってことを前提にしなきゃいけないから、この商売しているんだと思う。俺はその生きるという本能が人より欠けているから・・・いやもうないから、何でもできるんだよ」

「・・・マジかよ・・・」

 神島はしばらく何か考えて言った。

「ちょっとダイナマイトの件は考えさせてくれ。とりあえず、シャブの件が片付いたら、また連絡してくれ」

「わかった」

 俺は自分の車に戻って家へと帰り、さっそく準備にとりかかった。まずは、神島に言われた通り小さい耳かきで覚せい剤を取って水に溶かし、それを注射器にセットしてこぼれないよう再び針の蓋を装着。この覚せい剤入りの注射器を二本用意した。このほか小袋に取り分けた覚せい剤も二つ準備し、残りの覚せい剤は厳重に保管。

そして、スタンガンと睡眠導入剤を準備して時計を見た。

 まだ午後六時過ぎ。これなら今日の実行も可能だと思い、すぐにパソコンで宇川の今日のスケジュールを確認した。

 宇川の仕事が全て終わるのは午後の十時。明日も朝から仕事が入っているため、今日はまっすぐ家に帰るのではないかと予想。夕飯を済ませて午後九時頃荷物を持って家を出た。とりあえずは一度行動してみて、失敗しても明日があるくらいな軽い気持ちで。

 考えた作戦は簡単。宇川の自宅前で帰りを待ち、車で帰ってきた所をスタンガンで運転手共々襲って青山墓地まで行く。そこで覚せい剤を打ち睡眠導入剤を飲ませて車内を整え、三時間くらい経ったら警察に通報するだけ。なぜ青山墓地なのかというと、夜の墓地は単に人気のない場所だと思ったからだ。

 首都高を経由して青山墓地付近に着いたのが、九時四十五分。俺は墓地近くのコインパーキングに自分の車を停め、周囲を確認して覚せい剤と睡眠導入剤の入ったリュックを背負い、ペットボトルの水を軍パンのサイドポケットに挿して南麻布にある宇川の自宅近くまで徒歩で向かった。

 距離にして約三キロ。早歩きで三十分もあれば着くだろう。歩きながら俺は色々考えた。

まずスタンガンがうまく効くかどうか。持ってきたスタンガンは外国製の百万ボルトのもの。効くか効かないかは、人によってさまざまらしい。でも確実に言えることはスタンガンを使って人を失神させるのは極々稀だということだ。スタンガンを当てられた人間は体に電流を流され、一定期間筋肉が硬直するが意識ははっきりしているという。

俺は覚せい剤を打つ前に、睡眠導入剤を飲ませることにした。

 次に考えたのは、覚せい剤と睡眠導入剤を一緒に体に入れて生きていられるのかということ。一応睡眠導入剤は比較的弱いものを用意したのだが、この二つの相乗効果がどのように出るかはわからない。

俺がなぜその方法にしたかというと、これから襲う二人に、誰かに襲われたという記憶自体を、できれば無くしたいと考えたからだ。

俺自身の都合ではなく、これから襲う宇川、富谷、村尾の三人が皆誰かに襲われたとなって報道されれば、りんが俺を疑って最悪芸能界に戻ることを躊躇してしまうかもしれない。

でもぶっちゃけ、りんが芸能界に復帰できなくても、それはそれで仕方がないとも心のどこかで思っている。それは、やはり自分の人生は自分で決めるのが当たり前だからだ。

そうこう考えていると、宇川の自宅付近まで来た。

時刻は十時十五分過ぎ。

 人通りがほとんどない閑静な坂道の中程にある宇川の自宅は、一見一面が白い壁に見える。その白い壁の一角に窪みがあり、そこに同色の厚そうなドアと同色の駐車場らしいシャッターがあった。おそらく、ぱっと見では家ではなく白い壁にしか見えないだろう。俺はどこで待機していようかと思い、坂を下ると隣の家にキープアウトという黄色いシールが張ってある門を見つけた。街灯に照らされた建物は、おんぼろでどう見ても空家。俺はその門を乗り越え、しゃがんで待機することにした。すぐに行動を起こせるようにカバンからスタンガンを出して待つ。

街灯にまとわりついている小さな虫たちを眺めながら待っていると、車の音と共にヘッドライトの明かりが道路を照らし始めた。

スタンガンを握り門から確認。すると、白いワンボックスタイプの車が、こちらに向かって来て宇川の自宅前に停車した。

 俺は大きく深呼吸をして目だし帽を被り、ヘッドライトが消えた瞬間に勢いよく飛び出した。

まず運転席側の後部座席のドアを開け、後ろから運転手の首にスタンガンを当てる。次にパニくって反対側のドアを開けて車から出ようとした宇川の手を思い切り引き首にスタンガンを当てた。宇川は勢い余って、もろスタンガンがめり込んだためか失神した。

宇川が開けたドアを閉め、運転席に回り運転手のシートベルトを外して唸っている運転手を助手席に押し、もう一度運転手の胸にスタンガンを当てて車を発進。

バックミラーで宇川を確認するとピクリとも動かず横たわっていた。死んでないか若干心配になったが、それはそれでしょうがないと思いながら車を走らせる。

 そして、十分ほどで青山墓地に到着。ヘッドライトを消し、あらかじめ調べておいた忠犬ハチ公碑の前に車を停めた。

ここは人気のないのはもちろん、警察に通報する時に説明しやすい場所。

 リュックから睡眠導入剤を出し、軍パンに挿してあった水を取りだして、だいぶ体の痛みが消えて来たのか、若干もぞもぞと動きだしている運転手にナイフを突きつけて言った。

「とりあえずこれを飲め。飲まなければ、今すぐ殺す」

 運転手は泣きながら首を振ったので、俺はライトを薬の裏に当てて睡眠導入剤ブロチゾラムの文字を見せる。

「心配するな。これはただの睡眠薬だ。あんたには眠ってもらうだけだよ。信用しろ」

 運転手はまだ完全には動けなかったので、泣きながら渋々といった感じで口だけを開けた。

俺は薬をむき、それを口の中に水と共に入れ、運転手が飲んだのを確認してから、みたびスタンガンを肩、胸、足の順に思いっきりに当てた。

そして、後部座席に回り宇川の首を触り脈があるか確認。脈が触れ若干の安堵感のなか、上体を起き上がらせて座らせた。

息もしていることを確認し、肩を揺さぶって起こしてみたが全く起きない。

睡眠導入剤を飲ませたかったが、これでは飲ませられない。それならそれでいいやと思い、覚せい剤をリュックから取り出す。そして宇川の袖をまくり自分で打つ時の典型的な場所に注射した。起きるかと思いきや、全く起きる気配はなかったので注射器を右手に握らせ、小袋に入った覚せい剤を宇川のバッグに入れた。

再び運転席に回ってみると痛みか恐怖か睡眠導入剤が効いたのか、運転手も気を失っていた。好都合だと思い、リュックからもう一本の覚せい剤入りの注射器を取り、運転手の左腕にも打つ。

そのまま注射器を右手に握らせ、残りの覚せい剤を運転手のジャケットのポッケにも入れ、ダッシュボードに新品の注射器を二本入れて運転手を運転席に戻し、車から降りた。

 目だし帽を取り、空を見上げると月が綺麗に輝いていた。

近くのコインパーキングに停めてあった自分の車に戻り、買ってあった缶コーヒーを飲んで一息つく。

 少し経ち再び外に出て青山墓地の入口にある電話ボックスへ行き、警察に通報。

「墓地の中の忠犬ハチ公の碑の前に、白い怪しい車が止まっているから確認に来てくれ」とだけ言い電話を切った。

そして、再び車に戻り駐車料金を払って車を発進。一日目にして覚せい剤を手に入れるのと宇川への任務を達成できたことに満足しながら帰路に着いた。

 家に着いても当たり前だが誰も居ない。いつもなら皆でやる達成パーティもすることなく、一人でコンビニで買ったビールと弁当を食べた。一瞬寂しさを感じたが、すぐに自分の目的を思い出し食事の後、富谷をどこでどうやって襲うか考え、とりあえず奴の車の位置を確認した。

 現在深夜の一時過ぎ。驚いたことに車は、あの不倫相手とされる木ノ下優佳の住所にあった。すぐに別のパソコンで違うアプリを開き、あの時仕掛けたパワーストーン型のマイクの音声を聞いてみる。

すると女性の声で「もう帰るの?」と聞こえ、それに対して「今はホントに警戒しないとやばいんだよ」という男性の声が聞こえてきた。木の下と富谷の会話で間違いない。

それを聞いて、テレビドラマのような典型的な舌打ちが自然と出た。

 富谷がまだ不倫していることを知り、作戦を再び不倫系に変えようかとも思ったが時間が無いことを思い出し、確実に落とせる覚せい剤でいくことを再確認。

帰り際に木ノ下が「明日もちょっとでもいいから来てよ」と言ったのに対して、富谷が「わかったよ」と答えたので明日の予定が完全に決まった。

一度行ったこともあり簡単に侵入できる木ノ下のマンションの地下駐車場。

富谷の車が来たと同時に宇川のときと同じく車に乗込みスタンガン連発して覚せい剤を多めに打ち、残りの覚せい剤と注射器を置いて再びスタンガン連発して退散。そして、すぐに警察に「何やら駐車場の車でラリッてる人が居る」と住民を装い通報する。覚せい剤が多く余り、宇川達より多めに打つため富谷には睡眠薬は使わない。我ながら完璧な作戦だと自負し、疲れを取るために風呂にゆっくり使って床に入った。

 次の日、目が覚めると十一時半過ぎ。ゆっくりと起きて久々に外に走りに行った。

引越ししてから走るのは初めてで、いつもと違う景色の中で走るのが新鮮で、気持ちが良かった。

 帰りにスーパーに寄って弁当を物色。その時にも皆との思い出が蘇って寂しくなったが、すぐに振り切り家に帰ってシャワーを浴び、朝食兼昼食を食べた。

食べながら今日の予定を再確認する。木ノ下のマンション近くのコインパーキングなども含めて、今日のすべての行動を何度もシュミレーションした。

その後、厳重に保管してあった覚せい剤を出して注射器にセットし、残りの全てを小袋分けにして準備。注射器にセットした量は覚せい剤が余ったため、宇川達に打った量よりもだいぶ多い量になってしまった。

そして、富谷の車の現在の位置がまだテレビ局にあることを確認して、やることが全て終わってしまい手持無沙汰になった。

ふとりんに電話しようかと思いつきスマホを手に取ったが、未練が残ることが嫌ですぐに伏せる。

とりあえず村尾のとこも調べておこうと思いつき、まずは村尾の住所から地図アプリを開いて、写真でどういったところかを確認。場所は代々木上原駅から北へ徒歩で約八分の閑静な住宅地で、結構立派な一軒家だった。

駅からの距離を考えて、おそらく村尾は基本電車通勤ではないかと予想し、駅で張って村尾の後を付けて襲えばいいと考えた。

 時計を見ると夕方の五時過ぎ。まだ時間が十分にあるため、一度村尾の自宅を偵察に行くことにした。地図アプリでの写真を見ると、村尾の家の駐車場にはシャッターが無いように見えたからだ。

車の有り無しで、通勤方法がわかる。すぐに着替えて車で出発。井の頭街道をひたすらまっすぐ走り、環七を通過した所で俺はドキッとした。先に見える高級マンションがシャチのマンションだったからだ。

 俺はマンションから目を外し、その手前を左折して代々木上原駅方面へと行き、駅近くのコインパーキングに車を停めて徒歩で村尾の自宅に向かった。

歩きながらシャチのことが思い出されたが、すぐに今さら考える必要はないと、その思いを取っ払う。

そして、歩くこと約八分。村尾の自宅前に到着し駐車場を見ると二台分のスぺースに、車二台が停まっていた。一台は村尾自身のだと思われる高級外車で、もう一台は普通よりも若干グレードの高い国産車だ。

俺は軽く見まわして、すぐにその場から去った。コインパーキングに向かいながら村尾への作戦を考える。待ち伏せをする場所や駅の周りを色々見て回り、西東京へと帰った。

 家へ戻り夕飯を食べて準備に取り掛かる。午後十時半過ぎに富谷の車の位置を確認すると、まだテレビ局にあったが明日の富谷のスケジュールを考えて、そろそろ出発した方がいいと思い、荷物を持って木ノ下のマンションへと向かった。

この前と同様、木ノ下のマンション近くのコインパーキングに車を停めてノートパソコンを開く。富谷の車の位置を確認すると、こちらへ向かっているようだった。

 日付が変わった午前零時過ぎ。富谷もそろそろ着きそうな距離だったので、俺は覚せい剤の入ったリュックを背負い、目だし帽を軍パンのサイドポケットに入れて車を出た。

言い忘れたが、俺の格好は上下特殊部隊が着る軍服だが、色は迷彩ではなく黒なので、あまり目立たない。しかも、良いタクティカルブーツを履いているために足音もほとんどすることなく、靴底のクッション性も抜群で二階くらいから飛び降りてもびくともしない最高の格好。

 駐車場に到着してスタンガンを準備し、目だし帽を被って車と車の間に身をひそめて待った。

十分くらい経っただろうか。見覚えのある白いポルシェが入って来た。そして、俺の居る隣の隣に駐車してエンジン音が切れ、しばらくするとドアが開く音がした。

その瞬間に俺は飛び出し、車から出てこようとする富谷の腹にスタンガンをいつもより長めに当てると同時に、奴の体に体当たりし助手席に押し戻す。俺自身は運転席に座って、ドアを閉めた。

 体が硬直し唸っている富谷の胸に再度スタンガンを当て、さらに動けなくしてから、すぐさまリュックから覚せい剤入りの注射器を取り出す。騒ぐ富谷をナイフで脅して静かにさせ、嫌がる富谷の左腕に覚せい剤を打った。富谷はすぐにラリって頭を揺らした。

その後、富谷に注射器を握らせて床に落とし、残りの小袋に入った覚せい剤と注射器を全て車内に残してポルシェの鍵を富谷のポケットから取り、エンジンを掛けて車から出た。

 目だし帽を取りコインパーキングに戻る。途中コンビニで好きな缶コーヒーを買った。

車内に戻って、コーヒーを飲んで一息ついたあと、足のつかないプリペイドのガラケーで警察に通報。

マンションの住人を装い「なんか、うちの駐車場に怪しい車が停まってて、中で人が居るんですが様子がおかしいんですよ」と言い、住所だけ言って電話を切った。

 これで富谷への任務も終了。後は村尾だけ。村尾も片付けばりんの復讐は終わる。

俺は意気揚々として帰っていった。

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