【新たな拠点と再会】

 帰り道、皆寂しいのか、誰も話をしなかった。部屋に帰っても何だか皆の雰囲気も暗くなっていたので、俺はあえて明るく言った。

「よっしゃ!良いことした後は気持ちがいいね!とりあえず今日からパソコン担当は、剣くんできる?」

 剣は始め若干驚いていたが、すぐに責任感がにじみ出た表情で言った。

「まかせてよ!まだ卓三さんのようにはできないけど精一杯頑張るから!」

「オッケー!じゃ今日は俺が皆川関係を調べます!」

 皆が重い腰を上げて新たに出発しようとした時、俺の携帯が鳴った。出ると買った物件がいつでも入れるとの連絡だった。

そして、ほとんど同時にメールも入り、車も用意できたとのこと。

 俺は出かけようとした、りんを止める。

「ちょっとストップです。とりあえず今日は引っ越しをしましょう!」

 皆の目が点になり、りんが代表して口を開いた。

「はぁ?何言っちゃってんの?」

「今新しい拠点と車の準備ができたって連絡がありましたので、とりあえず今日は引っ越して機材とかを運ぶことにします。ちょっとレンタカー予約するわ!」

 皆ポカンとしたが、すぐに我に返り特に文句を言う者はいなかった。

とりあえず俺は駅前にあるレンタカー屋に電話をして引越し用のトラックを手配。一時間で用意できるとのことだったので、皆で必要な荷物をまとめ始めた。そして、トラックを取りに行き駐車場に停め、皆で荷物を積んで新しい拠点へと向かった。

 環七から新青梅街道に入り西東京市を目指す。向かう途中の新青梅街道沿いにある大型ホームセンターで色々揃えようと俺が提案すると、りんが質問してきた。

「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、お金ってどうしてんの?」

 そろそろ誰かからその質問が来ると思っていた俺は、何の感情もなく用意しておいた答えを言った。

「それは聞きっこ無し!まぁ結論言うと、どうせ死ぬ人間なんだから、いくらでも都合はつくとでも言っておきます。それ以上はノーコメントでございやす!」

「あぁ、そう・・・」

 りんはあっけなく納得してくれた。

ホームセンターに着きとりあえず布団やカーテン、間仕切りする機材や生活雑貨、自転車などを購入。トラックに積んで再出発し、最寄駅となる西武新宿線田無駅から徒歩十四分の閑静な住宅街の小さな一戸建てに到着した。

 間取りは3LDKで一階には十七畳あるリビングとキッチン、浴室などがあり二階には洋室が三つ。バルコニーもある。定期借家の三年契約の家。復讐に三年もかからないと思ったので安心して借りた。

 一階のリビングを間仕切りカーテンで小さく区切って、その一角にパソコンなどを置いて作業場とする。二階の洋室三つを皆で分けて、寝室にしようと決めた。

荷物を運びこんで家の中のセッティングは皆にまかせて、俺はレンタカーの返却と新しい車を取りに行く。トラックを高円寺のレンタカー屋に返して、その足でビジネスホテルへ行き、もう誰も泊りには来ないことを告げ、ジュースなどの追加の支払いを済ませて、電車で花小金井の車屋に向かった。

 その道中これからのことについて思いを巡らす。

『まず、たかこの復讐についてはこと無く終えそうだ。卓三とたかこには借金がある分、急ぐ必要があったから本当に良かった。たかこの復讐が終わったら次は剣か、りん。二人には特に借金はなさそうなので、そんなに急ぐ必要はないが、りんは芸能関係とのことで下手すると大問題となり、マスコミなどが動き出すことにもなりかねない。そうなると厄介だ。ここは、やはり剣の方から片づけた方がよさそうだ』

 電車が花小金井駅に滑り込んで、俺は駅からタクシーで車屋に向かい、車も特に問題なく手に入れることができた。そこから家に向かう途中で、卓三に聞いていた車の中の改造に必要な部品をカー用品ショップなどで買いそろえて帰宅。家に着く頃には日が暮れていた。

 家に入ると三人が頑張ってくれたおかげで普通に住めるようになっており、食事の用意もされていた。近くに大きいスーパーを発見したらしい。食料やホームセンターでは買えなかった細かい物も買い揃えてくれていた。とりあえず皆で食卓を囲む。食事中は雑談が多かったが、食事を終えたころにはこれからのことについての話に移っていた。

 早急の課題は、たかこの復讐を完結させること。この話題に入ると、すぐにたかこが思い出したかのように口を開いた。

「あっ、そうだ。あのさ、私の復讐だけど、その、元旦那はいいや」

「え・・・」

 りんがその先を言う前に、俺がたかこに言った。

「了解。じゃ火咲だけに復讐するということで。あっそうだ、復讐の内容だけどさ、どうしたい?弱みを握って、それから?」

 たかこは少し考えてから答えた。

「お金を返してもらいたい・・・」

「それだけ?」

「うん。それしか浮かばないというか、ひどい目には遭わせたいけど具体的には思いつかないから・・・」

 やはりここにいる連中はいい奴ばかりだ。

俺だったら、もう色々と方法が浮かぶ。軽いやつで言えば、例えば、まぶたや唇を針で縫うとか鎖骨をペンチで折るとか、瞬間接着剤で肛門を塞ぐとか。重いやつで言うと・・・やめておこう。

 そういう訳で、たかこの復讐は火咲の弱みを握って金を巻き上げることに決定。りんと剣は、始めは今まで自分たちが調べてきたため若干不満げな表情であったが、本来の目的と立場を思い出したらしく、何も言わなかった。それから俺たちは、火咲から金を巻き上げる作戦を相談することに。

 決まった作戦はいたってシンプルだった。りんが火咲に連絡して同伴の約束をして食事をした後、一緒に店に侵入。その後どこかのタイミングで火咲の携帯に卓三さんから託されたゴーストアプリを入れ、それを使って金を巻き上げる。

 作戦が決まって、俺は車を購入したのでこれからは団体行動になることを告げ、明日車に様々な機材を積んで実行に移ろうという話になり、今日の所はゆっくりと休むことにした。

 この家には二階に部屋が三つある。帰る家が無いたかこに一つ部屋をあげるとして、剣も調布の実家には帰らないとのことで一つ部屋を提供。そして、りんも大久保に部屋を借りているが、帰るのはしんどいとのことで泊まることになり三人を二階のそれぞれの部屋で寝かして、俺はリビングに布団を敷いて寝ることにした。

 俺は買ったばかりのふかふかの布団にくるまれながら、車に機材を積む方法を考えた。パソコンやら色々な機材を積み込まなくてはならない。本当なら卓三の力を借りたかったが自分達でやるしかない。色々考えて『大体のこんな感じで大丈夫かなぁ』と思った頃、自然と眠りについた。

 夜が明け、俺は電話の着信音で目覚めた。眠気眼でスマホ画面を見ると電話の主は卓三。時間は午前九時過ぎ。まだ二階の三人も寝ている雰囲気のなか電話に出ると、妙に元気な卓三の声が飛び込んできた。

「もしもし。連くん?卓三です。色々と本当にお世話になりました。とりあえず準備できたら、部屋に入れてもらえますか?」

卓三は、今高円寺のアパートの前に居るらしい。俺は昨日速攻で引っ越したことを伝えると、卓三は驚きの声を上げた。

 俺が用件を聞くと卓三は恥ずかしそうに言った。

「どこから話していいのかわからないから、結論だけ言うけど、とりあえず来月から会社への復帰が決まって妻と子どもに言える範囲でこれまでのことを話したら、来月の仕事復帰まで、その恩人の人たちの力になってこいとのことだったので、それまではお手伝いをさせてもらいたいと思って・・・」

『おいおい、言える範囲ってどこまで話したんだよ。まさか国家に復讐するとか話してないだろうなぁ?』と瞬時に思ったが、卓三なら大丈夫だろうと頭の中で勝手に解決して返事をする。

「そうかぁ!それは良かった!っていうかありがたいよ!実は車も手に入って、これからは車で団体行動することになってさ、一応前に言われた物をカー用品店で買い揃えたんだけど、配線とか色々難しそうでさ。本当助かります!」

 そして、卓三にはすぐに電車で田無駅まで来てもらい、俺が駅まで迎えに行くと言って電話を切った。

 俺は、すぐに卓三が戻ってくることを皆に伝えようと二階にあがろうとしたが、躊躇した。

『もしかしたら卓三が戻ってくることに良い気持ちがしない人が居るかもしれない。元々皆それぞれ辛いことがあり、この世での幸せを失って自らの命を絶とうとした人間たちだ。そんななか、卓三だけが幸せを取り戻して出て行った。その卓三が再び戻ってきたら嫉妬の心が出てくるのは人として当たり前の話・・・俺自身はどうだろうか。卓三に嫉妬しているか?いやまったくない・・・絶対に死ぬと決めているし、すでに人を殺している・・・何か良いことが起きて生きようと思っても、今のままでは刑務所行き。これから先、自分がする行いによっては死刑もあり得る・・・つか、もともとこれから先どんなに良いことが起きたとしても、この世に未練はない気がする・・・もともと未練がないってことは、俺は生まれてきてはいけない人間なのかもしれない。間違ってこの世に生まれてきてしまったみたいな感じ・・・』

 そんな勝手な思いが全く違う方向へと膨らんで立ちすくんでいると、りんが起きてきてしまった。

「おはよう。何?どうしたの?電話持って固まって・・・」

「え?あぁ・・・何だっけ?その・・・あっみんなは?」

 するとぞろぞろと皆が起きて下に降りてきた。俺は覚悟が決まらぬうちに話してしまった。

「あの・・・今卓三さんから電話があって来月から会社に復帰することが決まったらしくてさ、家族の許しも得たらしい。で、仕事復帰が来月だから、それまでは手伝わせてほしいとのことだったんだよね・・・」

 俺が皆をじっと観察する前に、剣が声を発した。

「嘘?本当に?やった!良かったぁ!すごい心強いじゃん!」

 続いて、たかことりんも声をあげて喜んだ。

 俺はじっと皆の顔を窺ったが誰ひとり一瞬の真顔も間も作ることはなかった。しかし、一応確認する。

「え?じゃとりあえず卓三さんには戻って来てもらっても、いいって感じ?」

 すぐにりんが反応。

「は?何言っちゃってんの?」

「そうよ。え?何で?」

 たかこが続き、最後に剣がだめ押した。

「よくわからないんだけど・・・あっ部屋が無いってこと?じゃ僕と卓三さん一緒の部屋でいいよ」

 俺は確信した。

「あっ、いやそういうことじゃなくて。いいの。全然気にしないで。とりあえず卓三さんを迎えに行ってくる・・・」

「つかマッハで行って来い!」

 りんが食い気味に言い、卓三が駅に着くまではまだ時間があったが、なんとなく居づらくなったので俺は元気よく「はい!」と返事をして着替えて外に出た。

 まだこの辺には無知だったので散策がてらちょうどいいと思い、駅の近くまでは車で行って適当に停め、あとは歩いて向かうことにした。

家の前の道は細いが、少し行くと大きめの道路に出る。その道には家電量販店とスーパーが一緒に入っている建物があり、昨日皆はここで食糧やらを買ったらしい。その道を東に進み、国道十二号を左に曲がって国道沿いを行くと田無駅に着く。踏切が見え、その手前にコインパーキングあったので、そこに車を停めて歩いて散策することにした。

 踏切を渡って左へ行くと駅の北口。渡らずに左に行くと南口だった。まずは、南口までを散策。

その道のりは行きつけのミリタリーショップがある京王線のつつじヶ丘駅周辺によく似ていた。閑静な線路沿いでパチンコ屋や不動産屋、飲食店がポツリポツリと連なる。南口に着いて階段を上がり北口に出ると一転、バスやタクシーが数多く待機していて八王子駅の北口や川越駅の西口によく似ていた。

ロータリーの上を歩いていると携帯が鳴った。卓三から着いたとの連絡。北口から改札へ戻り、卓三と落ち合った。

 卓三は一日しか経っていないが、何だか清々しく見えた。髭を剃り髪は整っていて薄いブルーのポロシャツにベージュのチノパン。おそらく奥さんのコーディネートだ。これが本来、幸せ時の卓三の姿なんだなとしみじみ思う。

「そういえば連くん。僕が戻ることにみんなはなんて言ってた?」

 卓三の質問に、俺はもしや卓三も俺と同じことを考えていたのではないかと思ったが、あえてとぼけて聞いてみる。

「え?なに?どういうこと?」

「なんていうか・・・その・・・」

 何だか自分では言いにくそうで困ってしまったので、とぼけるのをやめた。

「なんてね。みんな大歓迎だよ。実は俺も皆が卓三さんだけ、なんていうか生きる幸せってのを取り戻して嫉妬したりするんじゃないかと思ったんだけど、全然違った。そこはやはり死ぬ覚悟を決めている連中だよ。まったくそういう素振りはなかったよ」

「そう。よかった。みんなには本当に感謝してるんだよ。本当に・・・」

 俺は朝からしんみりしたんじゃ、今日の行動に鈍りが生じる気がしたので、家やら車やら機材やらの話に切り変えて車に戻った。そして、車に乗り込んだ後は、卓三に機材を積むに当たっての指導を仰いだ。

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