第23話

 僕の優れた感性は遠く離れた司令室の中で僅かな音と、地鳴りを感知する。

 僕以外の人間はそんなことには一切気づかず、作業を続けている。

 僕の五感は普通の人と比べて、この世界に来る前の僕と比べて次元が違うといっていいくらいにまで上昇している。

 これは神様が僕に与えてくれた祝福かな。

 ……今。起動したか……。

 

『アメリカの奴……許せないよな!原爆なんていう非人道的な兵器を使うなんてな!』

 

 僕がまだ高校生だった頃の遠い記憶を思い出す。

 あぁこれはいつ、誰が言ったんだけっけ?それに……僕はこの言葉に対してなんて答えたのだろうか?

 おそらく僕は肯定しただろう。

 当然だ。当然の答えだ。

 それを否定するような人間がいるのなら……そいつはきっと人間の皮を被った悪魔に違いない。

 まさか。僕が落とす側に回るなんて、あの時は考えてもいなかっただろう。

 

 銃で人を殺すのと。爆弾で人を殺すのと。

 剣で人を殺すのと。弓で人を殺すのと。

 石で人を殺すのと。棍棒で人を殺すのと。

 

 原爆で人を殺すのと。

 そこにどれほどの違いがある?

 

 せめて、後遺症で苦しむ人がいないように全員殺してあげるよ。

 味方も敵も。


「戦況は快調!……多数の捕虜を」

「捕虜?」

 僕は伝令の一言を遮る。

「捕虜などいらん。全員射殺しろと命じたはずだが?」

「なっ!それは……!」

 僕の一言に司令部内はざわめく。

「こ、国際法に反して……」

「国際法?そんなもの無用だ。この戦争に勝利すれば我ら大日英帝国が覇者となる。絶対の、ね。我らを裁くものなど存在しない。気にする必要など毛頭ない」

「なっ……!」

「今すぐに命令を下しなさい。全員殺処分だ。こちらには手当する余裕などない」

 本当に手当する余裕などなければ、捕虜を後方に送る時間すらない。

「そ、そ、それ、は」

「いいね?」

「……はい」

 僕は立場を利用し、有無を言わせない。

「さて、現実的な話しをしよう。今我々大日英帝国が抱える戦線は膨大。今まで音沙汰のなかった中華とソ連との間の巨大な戦線において、ソ連軍が動いているとの情報も受けている。未だ攻勢は受けていないようだが、それも時間の問題だろう。我らの目標は時間稼ぎだ。我が軍がアメリカ社会主義国を倒すまでの時間稼ぎだ。そのために出来ることをみんなで考えようか?」

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