異世界から異議アリ〜かの者の呼び声〜

鋼鉄の羽蛍

かの者の呼び声は、遥かなる夢の世界より


 ――では、語ると致しましょう。



 知っていると思われますが、世界は異世界テンプレ等というモノに彩られ、数多の異世界転生者が彼方へと送られたのはご存知かと。いえなに、私めはそれを幇助するために存在している、とある神に属する者であります。


 さて今日もその異世界への転生希望者が訪れた様ですね。


 彼らは往々に、様々な手段を用いて異世界へ通じるこの狭間の世界に足を運ばんとする訳ですが……いやはやこれで一体何人目の希望者でありましょう。

 すでに百五十一億四千三百二十六人目の転生希望者。こちらとしてはありがたい――ゴホン!気が遠くなる様な数字で大変でありますねぇ。


「異世界へ転生させてくれっ! 」


「いやはやこれまた、ド直球なご要望で。ではご希望通り、異世界へと送り届けて差し上げましょう。」


「……随分融通の効く神だな。最近は転生させる神側にも、ひねくれた者がいると聞いてたんだけれど……まあいい! 」


「くつくつ……それはまた、酷い言われようですね。時にあなたが望むチート能力や、あちら側での待遇などはございますか? 私めが可能な限り、その要望へ応えたいと思いますゆえ。」

「それで神と言われた存在の評価が変わるとは思いませんが、いかがでしょう。」


「マジかっ!? こっちでそれを選べるのか!? じゃあ、無双スキルにゲーム知識チートにハーレム体質と、それからそれから――」


 画して私めの言葉を諸々信用なさった転生希望者様へ、さんざん好き放題言い放った能力会得を差し上げ、そのまま異世界へと送り届けた次第です。


 時にその方の生前を調べました所、まさにありがちな人生の負け組とでも言いましょうか。しかしながら、私めの独断で調査しました結果、何とも自分勝手な妄想で生前を過ごしておられた様で。

 もし今の方が己の考えを改め、周囲との協調性を重んじ、前を向いて生きていればそれこそ、リアルでの素晴らしき人生も夢ではなかったでしょうに。


 おっと、この私めの責務は異世界転生者を送り届ける事です。いらぬ詮索は無用でございました。何――


 今頃送られたばかりの転生者様は、異世界でバラ色の人生を始めた事でしょう。そう……それが知らずにね。


 夢の世界をご存じない?それはいけません、私めの説明不足でございました。これは失礼。ならばお教えして差し上げなければなりませんね。


 夢の世界とは、我ら神に属する者の故郷。果てしなき世界へ、。遍く神々……邪神の全ての故郷でもある世界にございます。


――ドリームランド――


 詰まる所私めの使命は、そこへ産み落とされる異形の尖兵であるナイトゴーントの贄とし、異世界転生者を送り届ける事にございます。

 彼らは送られるやナイトゴーントに魂を喰われ、肉体を貪られ、精神だけが夢の世界の礎となり、無限の夢を享受出来るのです。


 もう私めが何者か、お分かりでしょう?紳士淑女諸君。


『こ、この建物の外が異世界!? なんだこりゃ、なんでこんなに世界が暗闇に覆われて……なんだ!? やめろ!お前らはなんだっ! 来るなっ、来るなっ!! ああ、窓に……窓に――」


 おやおや、贄に群がるナイトゴーントが早速捕食を始めた様ですね。これであの方も、異世界転生ライフを楽しめる事でしょう。


 さてさて、名乗りが最後となってしまいました。


 今更私めが名乗りを上げる事もないでしょうが、それは礼節に反しますゆえ。


 但し……私めが名乗りを上げたならば、紳士淑女の皆様方は


 では名乗りましょう。私めは――



 ――邪神……ナイアルラトホテップ――



『キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!! 』

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