第49話 教員彩々(ゴリゴリ熱血教師 2)

 体育館の入口に目を向けると、そこには肌着姿のマコが立っていた。


 マコはまん丸の目に涙をいっぱいためていて、今にも零れ落ちそうになっている。


 「なんだお前。そこまでして授業が受けたいのか」


 「はい。先生、ごめんなさい」


 マコの声は震えきっていて今にも消えてしまいそうに心細い。


 「それじゃあ、仕方ないから受けさせてやる。早くそこに座れ」


 このゴリラ担任のセリフに、私の頭の中で何かがポン!と良い音を立ててはじけ飛んだ。


 私はさっさと体操服とブルマ(懐かしい!)を脱いで隅っこに放り投げて、マコの隣に移動すると並んで腰かけた。


 「一人じゃなきゃ恥ずかしくないだろ。体重測る時だって同じかっこだし」


 ぎょっとしてこっちを見てる担任をそのままにらみつける。


 私は誰よりも小心者だから、白状するとこの時だって笑えるくらいビビってたし、実は声だって震えてたんだ。


 だけど。

 ごつい大人の男にこんなふうに惨たらしく脅されて、めちゃくちゃに恥ずかしくておっかないだろうに、それでもマコは母ちゃんが嫌な思いをしないようにって、自分がこんな風になることを選んだんだ。


 こんなに哀しいことってない。

 こんなに勇気のいることってないでしょ。


 マコの100倍は忘れ物をしている私じゃ、彼を慰めるなんて恥知らずなまねはできないけど。


 「先生。先生にはがっかりしたよ。最低だ」


 もっと勇気のある言葉が言えたらよかったんだけど。

 この時の私は、担任の目を睨みながらそれだけ言うのが、本当に精いっぱいだった。


 長いような短いような張り詰めた沈黙の後。

 そこかしこから小さな声が上がり始めた。

 ポソポソとしたざわめきは次第に大きくなっていく。


 「先生、ひどい」

 「やりすぎだろ」

 

 そんな声と一緒に、女の子たちのすすり泣く声が響いてくる。


 「先生。私、先生の授業うけたくないです。マコちゃんが可哀そう」

 

 ナミちゃんが立ち上がり、涙に濡れた声ではっきり宣言すると、クラスの女子の半分くらいが同じように立ち上がった。


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