第37話 まさか・・・ 9

 11月下旬の検診の日。

 自分の弱さをどれほど罵ってみたところで、全くなにひとつ間に合うものなんてない。

 2週間前まで確かに動いていた小さな心臓は、真っ黒になって止まってしまっていた。


 検診の朝。

 小さな兄弟の成長する写真を楽しみにしている我が子たちを全員学校へと送り出した私は、楽しみにする気持ちよりも遥かに大きな不安を感じていた。


 実は、前回の検診の少し後。

 最近すっかり鳴りを潜めていた心臓の不具合が起きてしまっていたんだ。


 そのころ、少しばかりトラブルが重なってしまって、それがかなりのストレスになっていたんだよね。


 実は我が家では、子供の習い事の先生のつてで、畑を借りているんだけど。


 元々大きな農家だったその地主さんの土地は、新しい路線の開発地にかかっているということで、土地が売れてしまうまでの数年間その畑を自由に使ってくれてかまわないというとてもありがたい話だった。


 ところが、今年が始まってからというものの、私の心臓が止まってみたり、子供が毎月のように入院していたり、連れの手術があったりとあまりにもイベントが盛りだくさんで、ちっとも畑に手が行き届かなくなってしまっていたんだ。


 早い時点で地主さんに返すことができればよかったんだけれど、返すにしても草の生えたままの畑を戻すなんて無礼極まりない。


 この判断が間違いだった。


 分かってはいたけれど、春から夏の草の成長ときたら、全く凄い勢いなんだ。


 引っこ抜いて後ろを振り返れば、すでに新しい芽が生えてくるような状況で、私の貧弱な心臓ときたら、すぐに音を上げてしまった。


 結局不整脈が酷くて動けずにいる間に、瞬く間に草は成長し、結局私の背丈ほどまでのびてしまったんだよね。


 さらに不運だったのが、今年の土日はなぜか狙いすましたかのように雨が重なったこと。

 連れと我が子たちが手伝おうにも雨が降っていたんじゃぁ何もできるはずがない。


 そんなわけですっかり荒れ果てさせてしまった畑のことが常に気になっていた私は、「最近は心臓も落ち着いたし、春までの間にきれいな畑に戻そう」とここに来てようやく手をつけ始めたところだったんだけど。


 2週間ほど前の稽古後のこと。

 仲介してくれていた先生から声をかけられた。


 「もしや」と思った私の嫌な予感はドンピシャで、やはり畑の件。

 置いてある荷物も含めて畑を綺麗に戻し、すぐ完全撤去しろというものだった。

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