第30話 まさか・・・ 2

 診察を終わらせようとしない私の言葉に、爺ちゃん医者はようやくこちらに向き直ることにしたようだ。


 満面の笑みを浮かべ、億劫で億劫でたまらないという口調で丁寧に答えてくれる。


 「こんな最初のうちに来られてもね。子宮内でちゃんと妊娠してますよってこと以外、他にはなにもわからないよ。だいたい、小さすぎて心音だってまだ聞ける段階じゃないんだから。止まっちゃってるかもしれないしね」


 この言葉を聞いた瞬間、私は全身の毛が逆立つほどゾッとした。

 頭のてっぺんから氷水をざぶりと浴びせられたような不安に襲われる。


 なんといったって私ときたら、イライラのストレスには強い方だけれど、不安からくるストレスへの防御力はゼロ。

 裸同然なんだ。


 さっきまでぽかぽかしてたお腹の辺りが急激に凍えきって、ズキリと重く痛んでくる。


 「ん?なんかもう一個隣に袋が見えてるけど。なんだろね」


 「ほんとうだ」


 仕方なしにちらりとエコー写真に目をやった爺ちゃん医者が、間延びした口調で続ける。


 「ま、よくわかんないからいいか」


 え?これ、双子とかじゃないよね??

 もし双子だったら凄い嬉しいな。


 なんだか凄くカチンとすることを言われた気がしたけど、そこは無理やり聞き流し、双子説の期待に胸を膨らませる。


 なんだかまた、お腹のあたりがほわっと温かくなってきた。


 私はどうにかこうにか気を持ち直し、正直言ってもはや顔を見るのすら嫌になっている、この最高に嫌な医者に質問してみる。


 「薬や、それに心臓のこともあるので、相談したくて早めに来たんですが。ダメでしたか」


 「ああ・・・」


 お爺ちゃん医者は再び鼻でフンッと笑った。


 「あのね、循環器科があるなんてホームページには載せてるけど、うちはそこまでのサポートできないから。そもそもうち、循環器は常駐の医者じゃないし。・・・もし産むんならその時はちゃんとした設備のある所探してそこで産んでね。それまでの経過はうちで診てあげてもいいから」


 診察の直前に提出したアンケートの『出産を希望する』欄にでっかいチェックを入れておいたのに、これはあんまりじゃないか。


 ショックで頭の芯がフラフラする。

 けれど、聞くべきことを聞かないままでは帰れない。

 自分だけのことなら、とっくに帰ってしまうけどね。


 「一昨日まで薬を服用していたんですが、大丈夫でしょうか。飲んでいた薬はすぐに止めたんですが」


 「影響なんてわかんないよ。妊娠初期にはいろんな影響が大きくでるんだから、薬止めるのなんてあたりまえでしょう」


 爺ちゃん医者は気だるげに背もたれに寄りかかった。


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