第25話 みっちゃん 5

 「きょう。お前、本当にバカだな」


 吐き捨てるように口にすると、カズは「クソ!」と悪態をつき教室へ戻っていった。


 カズは場の空気を読むのが凄く上手い奴で、穏やかだし明るくて優しい。

 毎日ではないけど、週に2回くらいは私の家にきて一緒に騒ぐくらいは仲が良かった。


 こんなに怒って荒れている彼を見るのは初めてだ。


 なぜか突然バカ呼ばわりされたけれど、相手がカズだったからむやみに怒る気にもならなかったし、今はそれどころじゃない。


 私はうつむいたまま黙り込んでいるみっちゃんに、できるだけ明るく声をかけた。


 「ナミちゃんのこと、本気で困っていたならもっと早く教えてくれればよかったのに・・・。」


 私の言葉にますますみっちゃんが下を向いて小さい声で囁くようにこぼす。


 「ごめん。好きなこと言って。」


 みっちゃんはかなり落ち込んでしまっていたから、安心して欲しくて私は小さく笑った。


 「いいよ。俺の名前でみっちゃんが元気になるなら、好きなように使っていい。実は結構、嬉しかったしね。」


 私が軽口を叩くと、ほっとしたのか、みっちゃんはようやく顔をあげ、眩しい笑顔を見せた。


 中性的で整った顔立ちのみっちゃんに、こんな風に突然無防備に笑いかけられると、見慣れている私でもちょっとドキッとする。

 女の子たちが夢中になるのも、全く無理はないよね。


 「そろそろ先生が来る。教室に戻ろう。心配いらないよ。みっちゃんにあんな嘘をつかせるほどしつこくするなんて最低だって、ちゃんと叱っておいたから。」


 よほど彼女たちに問い詰められる毎日がきつかったのだろう。

 みっちゃんはまた表情かおをくもらせ力なく黙り込んでしまった。


 これ以上戻らなければ、本当に先生が来て騒ぎになってしまう。

 私は熱をもったみっちゃんの手をぎゅっと掴んで、強引に教室に連れて戻った・・・・・・。



 カズの言っていた『バカ』の意味は、結構すぐに分かった。

 その日から夏休みまでの数日間。

 私は結構な目に合うことになったからだ。


 例え嘘だったとしても、みっちゃんファンの女の子たちにとっては、ちっとも見過ごせるよなことじゃなかったんだよね。

 ナミちゃんグループをはじめとした、女の子たちの嫌がらせが毎日続いたんだ。


 カズはこうなることが分かっていたから、のんき私に苛ついて「バカ」って罵ってきたんだろう。


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