第16話 友 1

 人の話によると、私はかなり忘れっぽいらしい。

 なので、こうして思い出すことができているうちに、幼き日の友人のことを少し書いておきたいと思うんだけれど。


 私には、小学校入学と同時にほぼ毎日欠かすことなく遊ぶようになった友人が、5人ほどいた。

 この5人の友人たちとの交流は、小学校高学年になり部活が始まるまで、だいたい毎日続いていた。


 だいたいっていうのは、残念ながらそのころまで残っていたのは3人だけだったからなんだ。

 一人は父親の転勤で引っ越してしまったし、もう一人は当時流行りはじめたファミコンなる新しいお友達にすっかりはまりこんでしまって、家から全く出てこなくなっちゃった。


 さて。

 家の手伝いや妹の世話で、私があまり長く家を空けられないことを知っていたこの友人たちは、毎日せっせと自転車で私の家に集まってくれていたんだ。


 そうして集まっては、定番の昆虫採集はもちろん。

 音の鳴るピストルやかんしゃく玉を持ってきて、ちょっとした悪さなんかをして一緒に怒られたり、庭にある少し大きなため池で泳ぐヒキガエルや虫を捕まえて遊んだり。


 膝小僧ほどの深さがあるため池の死んだような水の中に、石橋から思い切り飛び込んだり、枯れた滝や青々と生い茂った木の枝によじ登る速さを競ったりと(これについては私は終始応援のみの参加だったけど)、尽きることない遊びのネタを次々掘り起こして貪りまくっていた。


 家のならびに空き地があったんだけれど。

 その中央が小山になっていて、脇にちょっとした穴が掘られていたんだ。

 そこに色々とおかしなものを持ちこんで、扉変わりの板を置いて作った秘密基地はなかなか悪くなかった。


 きっと大人から見たら酷くくだらないものだったのかもしれないけれど。

 なんのことはないただの土の壁を、仏壇用の蝋燭の灯りが彩る小さな宇宙は、くすぐったいような嬉しさと楽しさで、いつだってひたすら溢れかえってた。


 家で食べる専用の野菜を育てている畑は私の管理で自由になっていたから、腹がすいた時はそこでキュウリやトマトなんかをもぎ取って、おやつ代わりにみんなでかじる。


 第二の秘密基地である生垣の中の空洞に胡坐をかいて、真っ黒に日焼けした肌の上で食い放題を商い始めたやぶ蚊の大軍を叩き落としながら、互いに好きな子の話なんかを打ち明けてみたりもした。


 そうやって力いっぱいふざけ合い、時には激しく喧嘩したりもしながら、この思いやりが深くしっかりした友人たちは、私が後で叱られたりしないよう、何も言わずに支え続けてくれてもいた。


 私の家の仕事に手を貸し、さっさと一緒に片付けてくれると、余裕のできたその時間で、近所の駄菓子屋に自転車で突撃する。


 立ち並ぶ民家の間に、薄暗い口を細く不気味に開けている駄菓子屋の入口通路は、私があまりにも方向音痴過ぎるせいなのか、あんなに通ったはずなのに、その場所に現在いまはもう全くたどり着けなくなってしまったんだけれど。


 そこで瓶のコーラを一本ずつ買う。

 さっさと飲み切ってしまったその瓶を駄菓子屋のおばちゃんに返すと、どう見ても子供嫌いで愛想と言う言葉すら知らなそうなおっかないおばちゃんが、ぶっきらぼうに「瓶の分だ」って言ってお金をいくらかくれる。

 そしたら今度は、それでかき氷を買うんだ。


 頭をキンキンに痛めつけながらかき氷を頬張ると、余りのお金で買ったきな粉棒を口に咥え、自転車にまたがって大急ぎで私の家に戻る。

 自転車の後輪に風船や壊れた下敷きなんかをくっつけて、バリバリ音を立てながらね。


 当然ながら、そんな私と友人の関係を母が快く思うはずはなかった。

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