第14話 恩がある 1

 話は物凄く飛ぶけれど、私は10年ほど前、尻尾をくるっくる巻き、紆余曲折うよきょくせつを経て恐怖の館と化していた実家から夜逃げ同然で飛び出した。


 それ以来、私が自分からあの場所にコンタクトを取るようなことは皆無なんだけど。


 厄介なことに、私は元家族たちに恩が・・・つまり、借りがあるって、未だにどこかで強く意識し続けちゃってる。


 実際、「お金がない」と言いながら、祖母も母も月に一度は家族全員での外食に連れて行ってくれたし、夏休みも毎年旅行に行ってた。

(今になって思えば、「本当にお金ないの!?」と突っ込みたくなるような家だ。)


 「夏休みの絵日記にろくな思い出が書けないんじゃ可哀そうだから、あんたのために、夏場は家の仕事が忙しくならないよう調整してあげてるんだよ。」って、母がいつも言っていたとおり、夏休みの間だけはみんなゆったりと過ごしていたし、プールや映画にも連れて行ってくれた。


 それに、病院だって何かあればきちんと連れて行ってもらえていたしね。


 これを言うと、友人たちは「病院?そりゃ当たり前のことだろ?」って言ってくれる。

 だけど、私は友人の言う当たり前が、決して当たり前のことなんかじゃないってことを、知っているから。

 それを知ることになったのは、少し先。大人になってからのことになるんだけれどね。


 そんなわけで恥を知らない私は、私を大切に想ってくれている人がいるのを、ちゃんと・・・苦しいくらい胸いっぱいに感じているのに。

 恩知らずにも、意識の底の底の方で、無意識に実家の者たちに恩を感じてしまっていて、未だにどうしたってそれを止められないでいる。


 さて、さっきも話した通院についてのことだけど・・・。

 実のところ私は、両手や背骨や内臓なんかに、ちょっとした障害を持ってる。


 面倒くさがりな人間だから、内臓が一個足りなかったり、そこで袋の形をしているはずの臓器が、ただの筒の形で収まっていて彼本来の役割をあまり果たしていなかったり・・・なんていう、身体の皮にくるまれていて都合よく目に映らなくなっていることについては「ま、いっかぁ。」っと、全く気にはしていないんだけど。


 実際に日常生活で一番煩わしいのは、手の小さな障害なんだよね。


 鏡面反射症っていう、両手の指が意識と反して同じように同時に動いちゃうという、一見楽し気なこの症状・・・。

 それに加えて、全部の指が曲がったまま、ちゃんとまっすぐには伸びてくれないホラーな見た目。

 できるなら一度試して欲しいくらいなんだけど、これがまた、思った以上に厄介なんだ。


 ペタッとくっつく家庭用電気マッサージを手のひらに付けたことがある人ならわかると思うんだけど。

 電気を流した時に、手首や指が自分の意志と全く関係ない動きをするでしょ。

 あんな感じで、使っていない方の手が勝手にもう一つの手を真似して動いちゃう。

 ちなみに、足の指は(使い道はないけど)無駄に器用で、こっちはバラでしっかり動いてくれるというのが、またまたミステリーだよね。


 更に、両手を合わせて20キロにも及べない、この最高に弱い握力!究極のポンコツ感!


 最近、「デジ画にPCのタッチパネルで挑戦☆」なんていうアホほど無謀なことを始めている自分だけど。

 これはまぁ、センスと能力が全く足りていないだけで(一番の問題だ!)、力もいらないし両手の指を同時に動かすこともあまりない。

 そんなわけで、「いい加減ちゃんとしたペンタブなんかを使いたいなぁ」とは考えつつ、結構どうにかなっているんだけど。


 でも実は力作業や、それから細かい作業や両手で違う動きをする作業が、私には結構しんどかったりする。


 まさに今現在もPCのキーボードを打っているけれど。

 少しばかり神経と力を指に集中させて、片方ずつ指を動かすよう注意しながら打っているものだから入力ミスがかなり多いし、打つ速度だって私の連れに比べてしまうと、あまりの遅さに哀しみが止まらないくらいだ。


 すごく興味があった横笛やフルカウルのバイクなんかも挑戦はしてみたけれど、無念にもやはり、現実的に身体が無理だった。

 けどまぁ、楽器は金管楽器ならだいたいは吹けるわけだし、バイクは諦めたけど、代わりに自動車っていう最高の相棒に出逢えたから、まさに塞翁さいおうが馬ってやつだよね。


 さてさてそんなわけで。

 両手の指にあるわずかな障害に加え、一般的な子供よりも著しく身体の成長が遅かった私のことを心配した母は、きちんと病院へ連れて行ってくれたんだ。


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