第20話 それぞれの一週間
翌日。
金曜日だからと、そわそわしだす友人達を横目に、オレも何か成し遂げるべきかなと気を逸らせる。
前日に行ったリネアとの素材集めでは、羊を相手にいい結果を出せていた。
まぁ残念ながら弱体化にまでは至らなかったので、素材は中品質で落ち着いたが。
ルドルフさんだったら高確率で高品質を叩き出すだろうが、それを彼女に求めるのは酷と言うものだ。
オレがもう少し無力化の効率化を上げぬ限りは中品質が限界といったところだろうか?
彼女はそこら辺謙虚なようで、今は中品質だけでも手に入るだけ嬉しいとも言っていたっけな。
ルドルフさんにも見習って欲しいものだ。
まぁ商売の違いと言って仕舞えばそうなのだが、彼は商人で素材そのものに価値を見出す。彼女の場合はそれらを使って商品を作り出す。
リネア曰く、高品質である程成功率が高くなるのだとか。
なので商品価値=成功率ということになる。
商売人としては高品質を集められる事こそが信用につながり、生産職としては成功品を大量に作ることが信用になる。その違いらしい。
要は売り手と作り手の違いだな。
そうそう、ルドルフさんで思い出したが、彼との付き合いは変わらず行こうと思う。
なにせ命の恩人だ。それにアザレさんとのつながりを作ってくれた人でもある。
リネア曰く、デザイナーと呼ばれる彼女は雲の上の存在だとかで普通に頼めば数ヶ月待ち。
次の日に用意してくれることなんてまず無いと言っていた。
値段も数千万~と色々破格らしく、その商品がコレだと言ったら目をパチクリとさせていた。
それぐらい凄い人との繋がりは、多分その大きめな収支によって生み出されたのだろう。
いや、違うか。
彼とは一度もパーティーを組んだことがない。きっとそれもスキルコンボのうちに加わっているのだろう。
そして素材を全て自分のストレージに溜めている。
彼の凄いところはその全てを高品質に収めているところだ。
大成功と行かなくても、成功で一匹から5~6枚持っていく技術はリネアには真似できぬものらしい。
そりゃそうだ。
彼もこのゲームの遊び方に気づいた物の一人。
気づけなかったリネアには真似できないコンボを練り上げているに違いないのだから。
そして問題の買い取りについてはオレの方が自慢したくて彼に押し付けた形だ。
卸値については無知を晒してしまったが、彼は実際何度も聞いてきている。
「この値段でいいか?」と。
だから悪いのは彼だけではない。
オレも同罪なのだ。
情弱はそれだけで罪とはネットゲームあるある。
それをストレージを開けたい一心で、特に疑問に思わず了承してしまっていた。
今後はリネアにあらかじめ連絡してから卸値を決めようと思う。
その結果、彼は落ち込むだろうか?
いや、案外心配してくれていたのかもしれないな。
毎回あまりに大量に持ち込むものだから買い取りの度に顔を引きつらせていたもんな。
だからまず、オレが優先すべきは圧倒的力で敵を弱体化させる事と、それらの知識、価値を正しく知る事だ。
普段なら出来ることが、あのゲームに限って出来ない。その原因は性格変調であるとも彼から教えて貰っていたのに、どうしてその時にすっぽ抜けてしまうのだろうか。
ぐぬぬと表情を顰めていると、親友殿が心配そうな顔を向けてきた。
「なに難しそうな顔してんだ、タカシ」
「そんな顔してない」
「してたよー」
「本当か?」
「タカシぃ、俺の質問は無碍に扱って、美波ちゃんの質問にだけは答えるってどう言う了見だオメー」
「どう、どう立橋君」
「美波ちゃんはそうやってすぐタカシの肩を持つ。だからこいつが付け上がるんだぜ?」
「付け上がっているのはお前だろう?」
「そうだよ、立橋君」
「ひでー。どうして俺だけ仲間外れにするの!?」
いつものように茶番を繰り広げながら、雑談を始めるも、すぐにゲームの話に移行してしまうのはご愛嬌。
「そういえばSKKは初めての大規模戦闘だって言ってたな。準備のほどはどうだ?」
「そうなんだよ、聞いてくれる? 俺の苦労を!」
「はいはい」
「まぁまぁ。立橋君がこんな風になっちゃうのにも訳があるんだよ」
「へぇ。こいつはいつもこんな感じだから平常運転だと思ってた」
「ひでーぜタカシ。そう言うお前はどうなんだよ! エリア2は超えたのか?」
「ああ。2も超えてエリア3に着手してる」
「相変わらずすげーなお前は。一般的なゲームで例えれば、まだそこかよって言われるかもだけど、あのゲームで前に進めるってそれだけで偉業だからな!」
「そうなんだ。高河君も頑張ってるんだね。私達も頑張ろっか?」
「おうよ、今回の勝利は美波ちゃんに捧げるぜ!」
「あはは……」
「そこは嬉しいって言うところだぜー?」
「バカ言ってないで、次の授業の準備しとけよ?」
「へいへい。どうせ俺はバカですよー」
不貞腐れてしまった友人の背を見送り、それを苦笑して見守る美波とも別れる。
みんなそれぞれの悩みを抱えている。
当たり前だけど苦労してるのはオレだけじゃないんだなと思えば、その悩みはちっぽけなものに思えた。
ゲームを始めてから一週間。
まるで変わってないように見えて、様変わりした。彼らは今や
オレも……あれから少しは変われただろうか?
「また来週~」
そんな言葉を皮切りに、それぞれの帰路につく。オレも、自分のノルマをこなすとしようか。
ログインと同時。リネアから連絡が数件来ているのに気づいた。内容は昨晩のスキルの可能性について。
彼女はあれから諦めていた刀の作製を成功させたようだ。もしよかったら使って欲しいと、そう言ってきた。
三刀流か。
文献にはないが、無ければ作ればいいのがこのゲームの良いところ。
そのうち何か思いつくだろうと、オレは彼女の工房に足を向けた。
出迎えてくれたのは徹夜明けの彼女の姿。
目の下に隈を作っている姿はお世辞抜きでグロッキーに見えた。寝なくて大丈夫なのだろうかと言うほど憔悴して見えた。
だが瞳の奥はギラついており、もしかしたら当時の自分もそうだったのではないかと思い、言葉にするのを留める。
それと彼女、見た目的に同じくらいだと思っていたが、割と自由な時間に遊べるご身分らしい。
年齢こそ教えてくれなかったが、年上とだけ聞いた。それでも呼び方は変えてくれなかったのでオレもいつも通り接することにした。
「それで、くれるらしい刀とは?」
「うー、もうちょっと成功を喜んで!」
「悪かった悪かった。おめでとう、これで職人として一歩前進だな」
「ありがと。それもこれも気づかせてくれたマサムネさんのお陰だよ」
そう言って笑う仕草は彼女を魅力的に彩る。
なまじ本来の性格を知っているからこそ、それが本当の笑顔だと気づいた時は嬉しくなったものだ。
「はい。これが、例のヤツね」
少し照れたように「初めて武器作ったから期待しないでね」と付け足して手渡してくる。
苦労したんだよー。いつもならこう付け足してくる彼女だが、今回は言わなかった。
苦労はきっとしてないんだろう。なまじ生産職を目指すだけあり、確固たるイメージを持っている彼女の事だ。
作ってみて、手にとって、微調整はしたのだろう。その形跡は工房の端にいくつか転がっていた。
「ふむ。突貫で作ったにしてはいい出来栄えだ」
「でしょー。もっと褒めてくれていいんだよ?」
「凄い!」
「語彙力頑張って!」
「だってそうだろう? 専門外なのにこの出来栄えだ」
「えへへ」
その刀の性質は、まさに日本刀と言って差し支えない出来だった。
[帝刀・灼牙:攻撃力35、会心率35%、投擲時貫通付与]
まさに投げて使えと言わんばかりの刀。
オレが刀を投げて扱っているのを彼女に見せたからか、それともガデスの武器をこんな乱暴に扱われたくなかったのか、彼女はこの武器を作ったのだろう。
「ありがたく使わせてもらうよ」
「壊れたら言ってねー。あと新素材の情報もよろしく~」
「はいはい。なるべく一番に教えるよ。それと相場も教えてくれよな。今後の参考にする」
「もっちろん。最初っからそういう契約だしね」
「契約か。オレとしては約束の方が好きだな」
「ごめんねー、口癖でさ。約束だと破られちゃうこともあるから、契約って言うようにしてるの」
「そうか。いや、別に気にしてない。これからも頼むな?」
「あいあいさー」
とりあえず寝たほうがいいぞとだけ促し、彼女の工房を後にした。
さて、次はどこに行こうかな?
新しい刀の試し切り……いや、次のエリアの情報でも貰いに……うーん。でも羊の安定的な弱体化の方が先だろうか?
うんうんと唸りながらも、オレの足は組合に向かっていた。
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