天と地と

 後ろから殴られて、俺の意識はあっさりと途絶えた。死んだ。銭ゲバ、金狂い強欲老人、悪口を受け流して貯めた金も全てが水の泡だ。

 そんな死の記憶を思い出しながら、あたしは目の前の俺だった死体を眺めていた。つまり俺は死んで、その魂は十九年時間を遡り、後に義理の娘となる飯田蛍として生まれ変わったのだ。あたしは、義父・渡良瀬卓三の前世の記憶を思い出し、遡って人格が統合、おっさんゴスロリギャルとして爆誕した。しかし卓三の記憶は卓三が生きている間は卓三に紐づけられるらしい。卓三の死と共に卓三の記憶があたしに再び接続されたということだ。瞬間的な理解の爆発に、あたしはその場でオロロと吐いて、母(前世では妻)に介抱されて部屋に戻った。

 母は部屋に戻るとドアにカギをかけて、ベッドに倒れ込んだあたしの手を掴んで泣き出した。

「パパ死んじゃった……蛍ちゃん、どうしよう」

「どうしたもんかな」

 この別荘にいるのは主人である渡良瀬卓三の家族と親戚、友人家族と使用人の合わせて十二名。ここは今、陸の孤島となっていて、外からの侵入者はない。つまり、犯人は残り十人の中にいる!

 とか考えながらあたしは寝てしまい、そして、そのまま死んだらしい。

 目が覚めると、あたしは渡良瀬卓三の友人、青木武に転生している。おっさんゴスロリギャルおじさん爆誕である。

 私が鍵のかかったドアを破ると、中では蛍と母親のあゆみが死んでいた。

 そこで再び頭に衝撃。展開が早い!

 二度あることは三度あり、三度あることは何度でもある。割愛するが、あと六人死んで、私は三回転生した。

 そこで時間がきた。

 突然大きな揺れがあり、次いで断続的な揺れが続いた。地震ではない。世界大戦の始まりと終わりのミサイルだ。

 だが、渡良瀬卓三が財産のほとんどを使い築き上げたシェルターは、核攻撃でさえも耐えきったようだった。外の人間はどのくらい生き残ったのか。中の人間は、もはや二人だけだ。

 そして予想した通り、これまでの比ではない記憶の奔流が流れ込んできた。暴力的な混濁の中、奇跡的に人格は統一される。

 部屋の扉が開いた。

 メイドだった女が、そこに立っていた。右手に長い刀を引きずっている。彼女の中に最初の犯人もいるのだろうが、今や混ざってしまった。僕と同じだ。

 何億の魂が二分されて、僕と彼女の中にある。

 女が口を開いた。

「待ちかねたぞ、武蔵いや信玄、いや」

 僕は無言で、二刀を構えた。自然と、笑みがこぼれた。

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短編1000字 朝飯抜太郎 @sabimura

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