そして石になる

 2029年、ケイ素型知的生命が宇宙より来訪。全人類に対して意識浸食して去る。


「我々は全ての知的生命に幸福な生と死を望みます。方法は伝えました。さようなら。地球の人。愛。平和。友だち」


 直後、地球のあちこちに直径10メートル超の謎の球形巨石が出現した。

 SNSで情報が共有され、それぞれの国の軍隊なりが動き出すまでの十数時間で、巨石を触った数万人が石になった。

 その石に触れた人間は石化する。痛みも苦しみも、意識もない……という。石の体は電気と水を通し、内部に回路が形成され、完全停止まで数百年らしい。

 要するに、奴らは緩やかな安楽死の専門家でテロリストだった。


 そして俺の話だ。

 大石化時代の始まり、賛否の嵐が渦巻く中、俺たちは大学生で、究極の自由意志の行使手段には否の立場だった。

 そして、友人・家族の石化というイニシエーションを経て、反石活動を開始する。大学内サークルが革命組織となり、やがて世界中の同志と接続されてテロリストと認定されると、止まれなくなった。

 安楽死システムの合法化直前、俺たちの組織は石の機能停止技術を得た。どうやって? 何のことはない、奴らも一枚岩ではなかった、ということだ。俺たちに選択する余地はなかった。石化機能停止作戦が開始され、今日、俺のチームは担当の石の前に立っていた。



 隣を見ると、円が瞳を潤ませている。鉄の女と呼ばれた彼女が。

 人の幸せを得るのは大義を為してから。そう互いに奮い立たせ、闘ってきた。

 だが、明日からはただの人に戻る。円、君と一緒に。

「円」

 円の肩に手を置く男。誰だ。

 その手の上に自分の手を重ねる円。何故だ!

「泣いていいさ。明日から僕たち二人、ただの人だ」

 俺のやりたかったやつ!

「ありがとう、来夢(くるむ)。でも二人じゃない」

「えっ」

「三人よ」

 そういって、お腹に手をやる円。優しい顔。心底、驚いた顔の来夢。

 だが俺はその千倍驚いている。15年一緒にいたんだ。手も握ってなかったけど。

 何がダメ……いや、もうやめ。考えない。何故なら、俺はまだ何も失ってないから………あれ、そういや昨日何か盛り上がっちゃって、PCで長文告白メール書いて送信予約してたな……機能停止予定時刻に。あー、あー。

「リーダー、時間よ」

 体がビクッと震える。

 みんなの視線が突き刺さる。

 俺はうなずき、石の近くまで歩く。せめて、せめて、スマホを家に忘れていてくれ……!

 俺は目を瞑り、


 ピロン♪


 笑って、そして石になる。

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