第5話:出発

 タロウは、驚きながらも、私の話に耳を傾けた。――1日だけ時間がほしい。翌日の夜、またこの浜に来てくれたら、約束どおり、リュウグウへ連れてゆく。きっと楽しく過ごすことができるだろう。ただ、長い旅になるので、出立までに身内や友人に別れのあいさつをしておくほうがよいかもしれない。


 こう説明すると、タロウはひとまず家に帰っていった。これで彼を放射能にさらさず、システム修復の時間を稼げる。速やかに帰還すれば、彼の身体的損傷もまだ回復可能だろう。


「夢ではなかったのですね」


 翌日、浜辺に現われたタロウは、私の姿を目にするなり、こう言った。


「夢でも幻でもありませんよ。でも、私の故郷はほんとうに夢のような国です」

「そうでしょうとも。それは、オトさんの姿を見るだけで、わかります」


 どういう意味だろう? タロウのうれしそうな表情は、なぜか私の心まであたたかくする。


「では、まいりましょう」


 私は、ふたたび空間飛翔相に戻り、タロウを連れて地球を離れた。懐かしい故郷を目ざして――。

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