第2話:渚にて

 遠くまで伸びる美しい街並み。青く澄んだ空が、この調和に満ちた光景を見守っている。


 この国の守護者であった母のあとを継いでから、どれほどの時間が過ぎただろう。少女時代の私は、その日に備えるため、遠くの空間へと旅をして見聞を広めた。


 予期せぬ事故に見舞われたのは、帰還する途上でのこと。私は、微小な天体と接触した。いつもなら軌道上の障害物を見落とすことなどないのに。気のゆるみだったのかもしれない。


 早急に、航行システムの修復を要する。そのためには、十分な水と日光を確保しなければならない。この条件を満たす最も近い星が、だった。


     ◇


 目のまえに、海が広がっている。


「これなら、案外早く出発できるかもしれないな」


 私は、砂浜の上で降り注ぐ光を受けながら、故郷の景色を思い出していた。地球には、ほぼ手つかずの自然があり、ようやく一つの生物種が文明らしきものを発達させつつある。だから、行動規範に照らせば、当地の生命体との接触は、最低限にとどめなければならない。


 航行システムの修復が進むあいだ、私は、ウミガメと呼ばれるこの星の生物に擬態していた。私たちの空間飛翔モードにどことなく似ているその外見なら、カムフラージュに最適だろうと判断したのだ。


 そのとき、浜辺の木々のあいだに、生物の気配があった。あれが、この惑星を支配しつつある「人間ヒト」の個体たちか。居住モードの私たちと非常によく似ている。見たところ、まだ「子ども」なのだろう。危険はあるまい。


 擬態していることに安心しきっていた私は、近づいてくる彼らの思念を察して、青ざめた。この地域は、長く続いた種族内の抗争と栽培作物の不作のため、慢性的な食糧不足に苦しめられている。彼らにとって、ウミガメは、この小さな島で入手しうる貴重なタンパク源らしい。


 つまり、彼らは、この「ウミガメ」をしようとしているのだ。

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