第5話 たどり着いたら


 この町で僕は、質屋の場所を人に聞きながら探し当てた。ペテロを残してトラックを停め、中に入る。


「いらっしゃい」

「あのう……これをお金に替えたいのですが」


 僕は琥珀のブローチとダイヤモンドの指輪を差し出した。


「ふむ」


 店主は丁寧にそれを受け取ると、じっくりと眺めた。


「これは、天炎の災禍の前に作られた品かな?」

「はい」

「焼けずに残っているのは珍しい。このような細工物を作る技術も失われてしまっている」

「いくらになるでしょうか」

「ちょっと計算するからお待ちよ」


 結果、とんでもない額のお金が手に入った。


「僕は今の時代の貨幣価値をよく知らないのですが、これはどのくらいのお金なのでしょうか」

「これで一年は遊んで暮らせるのではないのかな」

「ほえー」


 僕は丁重に礼を言って質屋を出た。

 すぐに近くの食品店に入って、缶詰をたくさんとサンドイッチを一つ買った。

 トラックに戻る。


「ペテロ、ごはんだよ」


 鶏の肉をペーストして詰めた缶詰だった。ペテロはあっという間にぺろりとたいらげ、空っぽの缶を名残惜しそうにぺろぺろ舐め出した。

 僕はハムとレタスのサンドイッチをお腹に入れてしまうと、南へとトラックを発進させた。


 町を出ると、道はガタガタで、もはや道と呼べるのかさえ分からなかった。そんな中を一路、ドゥラム地区を目指して走る。


「不思議なものだね」


 僕はペテロに話しかけた。


「あんなに恨んだナオミのことなのに、こんなに必死に会いに行こうとするなんて」


 ペテロは後ろ足で耳を掻いていた。


 僕はナオミとの交流を思い出していた。


 ナオミはお金持ちのお嬢様なのに、誰にでも分け隔てなく接する心優しい少女だった。天涯孤独の僕に、自動車整備の仕事を紹介してくれたのもナオミだ。僕がペテロを拾ってからは、一緒に可愛がってくれた。


 僕が勇気を振り絞って愛の告白をしたら受け入れてくれて、僕たちは恋人同士になった。僕はナオミと一緒に色んな場所に行ったけれど、何故だか印象に残っているのは、ナオミがペテロを愛でている姿だった。あらゆるものを慈しむナオミの姿は本当に愛おしかった。


 もちろんナオミは僕のことも愛してくれていた。僕といると本当に嬉しそうに笑うのだ。僕は幸せだった。この世でただ一人の味方が、こうして僕のことを大切に思ってくれることが。


 それなのにナオミは、家の都合で、会社の人と結婚することを決めたのだ。僕にはナオミしかいなかったのに、ナオミは僕を捨てて別の人のところへ行ってしまった……。


 僕とペテロは何日もトラックで旅をした。ごはんは、買い込んでおいた缶詰を、ペテロと分け合って食べた。そうしてひたすらにドゥラムを目指した。

 ドゥラムに入ってからは、いくつもの町を通過して、なおも進んだ。ナオミがいるのは首都の宮殿だという話だったから。


 幾日も幾日も旅をして、僕らは宮殿の前に着いた。それは石造りの素朴で地味な住居だったけれど、門は堅牢で、門番がしっかりと守っていた。僕がトラックで入ろうとすると、当然の如く止められた。


「何用だ」

「皇帝に謁見しに来たんですけど」

「客人か? そんな話は聞いていない。ここを通すわけにはいかない」

「そうですか」


 僕はすごすごとトラックをUターンさせた。

 ナオミに会うには、何か手を打たなければならない。


 僕はトラックを停めて肉屋に寄って、焼きたての大きなソーセージを二本買った。

 道端に座って、片方をペテロにやり、もう片方には自分でかぶりついた。


 それから、どうやってナオミに会うか考えた。


 ナオミ宛に手紙を書いて、面会の予約を取り付けるのが一番早いか。

 もしナオミに手紙が届くことがあれば、きっと予定を空けてくれるだろう。問題はちゃんと手紙が皇帝の元まで届くかどうかだ。役人か何かが、不審な手紙だとして勝手に処分してしまうかもしれない……。


 その時、ペテロが「ワフ」と鳴いた。しきりに尻尾を振って前を見つめている。

 そのペテロの見ている先から、不意に声がした。


「あら……ヨシヤとペテロじゃない?」



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