第8話 まどかとさとる(3)

「う~……あっついねぇ……」



 八月の青空を仰いで、まどかがこぼした。

 隣を歩くさとるは、うちわでぱたぱたと恋人をあおぐ。


「ありがとー……。わたし、夏って嫌いだなー」


 苦笑するさとる。

 普段からいくらか幼いまどかは、ご機嫌ななめだとさらに子どもっぽくなる。

 小さい妹がいるさとるにとっては、そんなところもとてもかわいいと思うが、一度そう言ったらひどく怒られてしまった。



「やっぱりみんなとプール行けばよかったのに」

「いーや! さとると帰りたいの!」


 ぷいっと顔をそむけるまどか。

 さとるは、慈しむようにくすくすと笑った。



 夏期講習からの帰りの二人。午後から用事があるさとるに合わせ、まどかは女友達のプールの誘いを断ってきたのだ。



「たしかに僕も、夏は好きじゃないかもなぁ」



「ほんと?」

「うん、だって」




 心のままに破顔したまどかに、にこりと笑いかける。




「まどか暑がりだから、くっついたら嫌でしょ?」




「……ふぇ?」

 一瞬何を言われたのかわからず、まどかはぱちぱちと瞬いた。


 その頬が、やがて真っ赤に染まる。



 暑いのは、きっと夏のせい。



「別に……。さとるなら、いいよ」



 うつむいて言うと、さとるの歩みがぴたりと止まった。


「さとる?」


 振り返ると。


「きゃっ!?」


 さとるが、突然ぎゅっと抱きついてきた。


「え!? ちょっとさとる!?」



 思わぬ行動に焦り、あわてて彼の背を叩く。

 しかし自分より体格のいいさとるは、びくともしなかった。




「ふふふ。僕ならいいんでしょ?」




 まどかは、少し前の自分の言葉を心底後悔する。



「もう、あっついよ!」





 幸せな二人の暖かな時間は、ゆっくりと過ぎていくのだった。

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