第5話 ちなつとけいし(2)

 六月。


 愛咲あいさき学園にも、梅雨がやって来た。



「はぁ~……」

 大きなため息をついたけいしに、ちなつはいたずらっぽく笑って言う。

「どうしたの?古傷でもうずく?」

「オレ、そんなに荒れてねーよ」

 荒れていた名残の金髪をかき、けいしも苦笑した。



 雨の日の図書室は、普段よりも人気が多い。どことなくざわめいた図書室では、二人の話もいつもより弾む。



 くすくすと笑ったちなつは、すぐ後ろの本棚から一冊取り出した。


「せっかくだし、季節の花でも見ない?」


 図書室の主がさすがの手際で開いた図鑑には、梅雨に咲く花々がずらり。

 けいしも、興味深そうにのぞきこむ。


「へー、バラって梅雨の花なんだ……。なんかイメージと違うな」

「そう?」

「おー。なんつーかさ、派手な花だし、もっと夏とかに咲くんだと思ってた」

「そうねぇ。でも、ちょっと暗い時期に咲くからこそ、華やかなんじゃないかしら」



「あー、たしかに、図書室にいるお前は一段とキラキラしてるもんな」



 顔もあげず、図鑑をのぞきこんだまま。平気な顔でけいしが言う。


 ちなつは一人で赤面し、

「……図書室をバカにしないでよ」

 と誤魔化すように言い返す。


 確信犯のけいしはにやりと笑い、さらに追い討ちをかけた。



「悪い悪い。それにちなつは、どこにいてもかわいいぜ」



 今度はさすがに、ちなつの心臓がどきんと跳ねた。

 喜びと同時に、しかし遊ばれている悔しさがわいてくる。

 唇をとがらせ、あたりまえよ、と答えた。




「どこでけいしくんに会ってもいいようにしてるもん」




 けいしの頬が、バラ色に染まる。

 隠すように顔をそむけ、窓を見ながら前髪を整えた。











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