第3話 就職ガチャにも失敗した私。

前話でも書いた通り、私は新卒で就職した会社で精神を病んで半年で会社を辞めた。


母の影響もあり、幼い頃からものづくりに携わる仕事に就きたいと思っていた。

とても魅力的な作品を作る会社に巡り会うことができ、幸運にもその会社の就職試験に合格することもできた。

給料はあまり良くなかったが、自分のしたいことをできるならそれでもいいと思っていた。

そして入社した会社だったのだが、はっきり言って地獄だった。

会社は家族経営で、社長一族がとにかくやばかった。


家族経営、と言っても私がいた頃一緒に仕事をしていた社長一族は、私よりひと回りくらい年上の社長と、その社長の母親だけだったが、この二人が口先だけのどうしようもない奴らだった。

私の教育係は前社長の母親で、ぱっと見の印象は優しげなおばあさんだがとんでもない。


あなたの為だから厳しいことも言うのよ、と平気な顔して言うような人だった。


私の為を思ってくれる人なら、多分自分が悪者になってでも苦言を呈するだろう。私の為、と言いながら、それは前社長が自分を守るためだけの言葉だったと気づいたのはだいぶん後になってからだ。

当時の私は素直だったし、人の善意を信じるタイプの人間だった。だからこの言葉を真に受けて何を言われても耐え忍んだ。

今の私は自分から喧嘩は売らないけれど、やられたら全力でやり返すし、遠慮なくズケズケものを言う。今の職場の人からはよく切れるナイフみたいな扱いを受けるので、あの頃とはだいぶん変わったなぁと思う。


一応、仕事は教えてくれたものの、イレギュラーなことが起こったら自分で考えなさいと放り投げられ、分からないなりにもやってみたら、なんでこんなことをしたのと詰られる。

知らないことで失敗すれば、なんでもっと考えて仕事をしないの、と嫌味ったらしく言われた。今ならお前もだろ、と言い返すくらいには性格が悪くなった。

あとは仕事のマニュアル作りをさせられた。右も左も分からない新人なのに。

マニュアル作りは仕事が終わった後、家で作って毎日前社長にメールで送っていた。そしてダメ出しをされ、それを直す。ちなみに残業代なんかつかない。

厳密に言うと残業代は出ていたが、固定残業代として支払われていたので、いくら残業しても支払われる金額は一緒。定時は確か18時だったが、定時に帰れたことなんてほぼないし、残業した後も家で残業だ。

小さな会社だったので、人手が足りない所に都合よく駆り出され、都合よく使われる。その場しのぎの人材で、育てようという気は無かったのだと思われる。もしその気があったとしても、長期的に物事を考えられる経営陣ではなかったのではないだろうか。


当時の繊細な私がこのストレスの嵐の週5日勤務に耐えられるはずもなく、明日は前社長に何を言われるのかと寝る前に考えてしまって、不眠になり、ストレスも重なってご飯をまともに食べられなくなった。

この時「進撃の巨人」が大流行し、私も例に漏れずめちゃくちゃハマった。精神がやられすぎて「この世は残酷だ……」と思いながらコピーを取っていた当時のことを、今でも鮮明に思い出せる。

この時損なわれた食欲はなかなか回復してくれず、次に就職した会社で受けた健康診断で「これ以上体重が落ちるようなら指導が入りますよ」と言われた。

今は無事に体重も食欲も戻って人生最高体重である。


私が就職した頃は「最低でも3年勤めないと何か問題がある子なんだと思われて再就職できない」と口を酸っぱくして言われてきた。

だから、仕事を辞めたくても辞めるのが怖くてできなかった。

3年働かないと、人生終わりだと思ったから。


でも、母に「帰っておいで」と言ってもらえず、自分を守れるのは自分だけ、と悟った私はその年の11月に新卒で入った会社を辞めた。


人生終わった、と思ったが、案外人生はそう簡単に終わらない。


次の就職先は全く方向性を変えて医療系の仕事にした。

将来的に地元に帰った時、医療系なら就職に困らないと考えたからだ。

今思えばこの時の選択は正しかった。

給料はだいぶん下がったし、仕事内容自体は体力的にキツイものだったが、ここで結構特殊なスキルを身につけることができた。

つらいことももちろんあったし、人間関係はとても殺伐としていた。

だが、仕事が合っていたのか4年ほど続けて今後のことも考えて退職し、今の職場に行き着いた。

現職は最初、別の職種での応募だったが、前職でのスキルを買ってもらえて前職と同じような仕事に就くことが出来た。

給料もいいし、職場の人もいい人が多い。たまに合わない人もいるけど、別にそこまで気にならない。


2回の転職を経て、いろんな痛い目にも逢ったけど、身につけた技術と知識は、今日まで私を生かしてくれた。

あの時死ななくてよかったと、今なら言える。

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