第13話 リオン軍四天王

「俺はここに来るまで、一万通りの戦い方を頭の中でシュミレーションしていた。」


 胸の前で腕を組み、静かに語る俺の言葉に、


「い、一万通りですか!?」


『おぉ~…』


 大げさに驚くクロエの声と、皆の感嘆の声が部屋に響く。


「…あぁ、それくらい考えていたかもしれん。」


(本当は、どうやって逃げようか考えていただけだが。)


 海に囲まれたこの島国に着いた時点で、逃げ場は無いので諦めた。


「では、それだけ考えていたのでしたら良い戦術を思い付いたのでは?」


 期待を込めて問うロノウァに、約一万通りのを考えていた俺は首を横に振る。


「 さっきまで俺が考えていた一万通りの戦術なぞ意味はない。 まだ情報が少なすぎるからだ。

まずは、戦場をよく知る事と自軍の戦力を把握する事だ!

それを基にどう戦うかを想像する。 何もわからず頭の中に考えていた事などただの妄想と変わらん。」


「な、なるほど。 自分の考えを過信せず、冷静に状況を分析し勝利を追求するその姿勢、さすがです!我が君。」


「…ふん、まあな。」


 (ていうかロノウァ、リオンの事『我が君』って呼ぶんかい。)


 再度、俺はこの場にいる者を見渡す。


「今の俺達の状態を確認するためにも、貴様らと意見を交わしつつ、真に勝つための作戦を練り直そうと思う。」


 つまり、『今から作戦を皆で考えましょう』と言いたいのである。


だって、何にも考えてなかったから。


「わかりました。 では、今わかる範囲で情報を整理しつつ作戦を考えましょう。」


 ヒミカが、指示棒の様な物を和服の胸元から取り出した。


(どこに仕舞ってんねん…)


「まず敵は勇者が率いる一団と、それに加えて東の国の人間軍。

 敵が東の国から海を渡ってこの国に向かう経路ですが、予想としてはだいたいこんな…」


 ヒミカが上段之間から、 俺達魔族の列と家老達の列の間に置かれている、ジャホン国の地図を指示棒で指しながら説明をする。


 地図で見るジャホン国は、俺が想像していた日本の地形とは違い、 逆三日月の様な形をした島であった。


「敵がパンゲラ大陸から海を渡って最短距離の経路で来るなら、大陸側に近いジャホン国の西の港を目指すでしょう。」


 指示棒が、ジャホン国の西側を指す。


「 ならば、この辺りに【ジャホン国 海軍】を置くとしよう。敵が島の反対を目指して周り道する可能性も考え、海軍各隊の配置は広く置いた方がいいだろう。」


 俺は指で、パンゲラ大陸とジャホン国の間の海を上から下へなぞる。


「そうですね。 この辺の配置は、【ジャホン国 海軍】と【リヴァイアさん】に就いてもらいましょう。」


(リヴァイアさん?)


誰?


ニュアンス的に、◯◯みたいな感じの言い方だったけど。


「ワシはあの龍、苦手じゃ。 いつも、国に入れてくれんき。」


(え、りゅう?)


「それは、あなたが何度も通行証を失くすからです。 私が何回血印を押してると思っているのですか?」


「うっ、‥すみませんでした。」


 こめかみに青筋を立てた笑顔のヒミカに、真っ青になって謝罪するサクタロウ。


( あの海にいた巨大龍のことか!)


通行証が無いと国に入れないうんぬんの話を聞いた事を思い出す。


リヴァイアさんて言うのか。あれ。


「ちなみ、リヴァイアサさんはメスです。」


メスだったのか。あれ。


(ていうか、あの巨大龍がいれば守りは完璧じゃないか?)


「リヴァイアさんはですが、相手はあの勇者。 ジャホン国海軍の協力があるとは言え、突破される可能性はあります。」


(…どんだけ強いんだよ、勇者。)


「私の【ヒミカ軍団】は、敵の上陸に備えて各地に展開します。この国に侵入出来る場所はいくつかありますがその中でも、パンゲラ大陸から最短距離でこの国に入れる場所で、真っ先に敵の主力が来る可能性が高い西の港を、リオンさんにお願いしたいと思います。」


「…ほう。なるほどな。」


(そこ、一番 俺に任せちゃいけない所~~!!)


「西の港は、勇者が現れる可能性が高い場所です。勇者が現れたなら、討伐の任を与えられたリオンさんには、そこについて戦っていただきます。

無いとは思いますが、たとえ倒せなくとも足止めしてくれるだけでも構いません。」


(いやいや! 一秒も持たないって!)


「こりゃ、【終焉の王】さんがいれば敵の主力だろうと大軍だろうと何が来ても安心じゃな!」


(【終焉の王(仮)】さんは、不安ですが!)


「ふふっ。 リオンさんにとっては、寧ろ役不足かもしれませんね。」


(反って役者が不足してるんです!)


 ていうか、もしかして俺一人でその場所に就けと?


「…しかし、いくら俺とて一人でたくさんの敵と戦うのは、(文字通り)骨が折れる…かもしれん。 」


ってか、物理的に骨が折れる。


「…え?」


「ましてあの勇者が来るとなれば尚の事だ。少しだけ手伝ってくれると、少しは助かる…かもしれん。」


「…………………」


「…どうした?ヒミカ。 」


「あっ、いいえ。なんか、らしくない様な…。何でもありませんわ。」


 何か考えながらじっと俺を見ていた様子のヒミカであったが、そう言っていつものおしとやかな笑顔に戻る。


「西側には、そちらにいる隊長お二人を筆頭に私の軍団からも就いてもらいます。リオンさんの邪魔にならない程度に、サポートしますわ。」


 ヒミカに紹介され、魔族側列の後方で正座している隊長二人が軽くお辞儀をする。


 二人とも人間の女性と同じ姿をしているが、頭にはそれぞれ二本の角が生えていた。


「私達は全力でリオン様のサポートを致します。」


「リオン様の方は私達の事は気にせず、全力で戦っていただいて構いません。」


 凛とした声でそう言ってくれるヒミカ軍団の隊長二人。


「…ふん、そうか。 」


(よかったぁ~)


 戦場でぼっちになることはないようで安心した。


「勇者以外の雑魚はワシら海軍が海上で抑えるき、 リオンさんは勇者との戦いに集中するぜよ!」


(‥勇者もそちらで抑えてもらっていいすか?)


やはり、不安になってきた。


どうしよう…


「リオン様、【四天王】がいる事をお忘れですか?」


(っ!?)


希望が沸く言葉を発した方を見ると、


ロノウァが爽やかな笑みを浮かべて流し目を俺に向けてきた。


(そうだ!俺には、【リオン軍四天王】がいたんだ!)


どんな奴等か知らんが、きっと強いんだろう。


「…そうだったな。 我が四天王よ。」


「わ、私もいますよ~!」


 隣でクロエが手を挙げてピョコピョコ言ってるが、気にしない。


 それよりも、俺に強力な部下がいる事が心強いのだ。


それも…四人だ。


「…ふん、お前達 のリオン軍最強の魔族がいれば、俺の出番は無さそうだな。

ところで、残りの三人は今どこにいるんだ?」



「え?」



「え?」



(…え?)



 なに? その、何言ってんだあんた みたいな顔。


ロノウァとクロエの反応に不安を覚えて、背中に冷や汗が流れる。


「あの、リオン様、 お忘れですか?」


「…何をだ?」


 え、本当に忘れた?みたいな顔をするクロエ。


「現在、四天王はこのロノウァ君 だけですよ。」


(な、なんだとぉぉーーー!? どういう事だ? )


 あっ、もしや残りの三人はまだジャホン国に到着していないだけという事か?


(ならば、早急に召集せねばッ!)


「早く他の三人をこの国に向かわせろ!」


「もう、リオン様ってば~。他の三人は倒されたじゃないですか、 勇者に。」


(既に勇者に倒されていた…だと‥!? )


「所詮、やつらは四天王の中では最弱‥。」


 ふっ、やれやれ‥と肩をすくめるロノウァ。


(四人中、三人が最弱ってどういう事やねん!)


 まさか四天王が一人しかいないとは。


 四天王って言うから、普通に四人いると思っていたのに‥。


紛らわしい言い方しやがって!


(OH…、ナンテコッタ…)


 ポーカーフェイスを崩す事はなかったが、俺は内心落胆した。


(‥自軍の戦力を把握するのは、本当に大事だな‥。)


 先程 ロノウァに言った言葉が、自分にそのまま返ってくるとは。



「あの、リオンさん‥大丈夫ですか?」


 俺達のやり取りを見ていたヒミカが、苦笑いで心配そうに聞いてきた。


「…ふん、大丈夫だ。問題ない。」


(はぁ~…)


 心の中で溜め息を吐きつつも、一切動揺を見せず、俺は何事もなかった様に返事をした。


 そうですか、と納得してくれたヒミカは話を再開させる。


「この『ヒミカ城』を本作戦の本部とし、私と家老達はこの城から戦況の把握に努めつつ、指示を送ります。」


「…わかった。 頼んだぞ。」


「ふふっ、はい。任せてください。」


 こうして、


 海上を、 ジャホン国 海軍とリヴァイアさん


 地上を、 俺、クロエ、ロノウァ、ヒミカ軍団


 本部に、 ヒミカ、家老達


それぞれの持ち場が決まった。



 その後、会議はしばらく続き、皆が意見を出し尽くして室内が静かになった頃、


何か他に意見や疑問はないかとヒミカが尋ねる。


 皆からはそれ以上新しい議題は挙がらず、俺が


「…ふん、問題ない。」


と応えたところで、


「では、大体の事が決まったところで、」


ヒミカはパンッと柏手を打ち、


「これにて、会議はお仕舞いです。」


閉会の宣言をしたのだった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る