第11話 ジャホン国 会議

 ジャホン国一高い建造物である『ヒミカ城』の大広間には―


 額から二本の角が生えた袴姿で、ヒミカが率いる軍団の【隊長】である魔族の女性が二人、


異世界版日本の代表らしく、和服姿のジャホン国の【家老】男性五人が、集まっていた。


 

 ―会議開始の少し前―


 ヒミカがその場にいる者達に挨拶を交している間、俺とクロエが入り口に立っていると、


「リオン様、クロエさん。 お久しぶりでございます。」


 和の色が濃いこの空間に似つかわしくないタキシード姿でスマートな印象の男性が声をかけてきた。


 自分の胸に手を当て俺達に流れる様なお辞儀をする。男性の服装と爽やか雰囲気、まっすぐな姿勢からの節度ある動作がまさに様になっていた。


(執事みたいなのが、出てきたな。)



「あ、ロノウァ君! 久しぶりですね~。」


「はい、クロエさん。 お元気そうで何よりです。」


(リオンやクロエと親しい人物かな?)


 タキシードの男性について、リオンの記憶から検索してみる。


 名前は、【ロノウァ】。


 リオンの軍団に所属し、 【リオン軍団 四天王】の一人であり、四天王の中では最強‥らしい。


(え、四天王なんていたのか!? なんか凄そうだな。)



「リオン様が勇者討伐を任されたとお聞きし、【リオン軍 四天王】、ジャホン国に馳せ参じました。」


(おぉ、一気に戦力が増えた!)


 勇者討伐を命じられた時は絶望的な気分であったが、新たに四人の強力な助っ人が来ていた様だ。


(これ、もしかしていけるんじゃね?)


 心に余裕を持ち始めた俺。


「…ふん、 頼りにしているぞ。 四天王 、ロノウァ。」


 キリッと引き締めた顔をロノウァに向けて言うと、


「…くっ はぁッ…」


 ん?


「お任せください、リオン様。 勇者討伐、必ずや成功させましょう。」


 一瞬、なんか恍惚としたやばい顔で変な声を出した様に見えた気が……。


 いや、姿勢が良くて立ち姿が美しく、爽やかなスマイルで話す彼がそんなわけないか。 うん。


「……ははっ…相変わらずだね~。」


 隣のクロエが何とも言えない顔をしてるのも、気のせいにしておこう。



「お二人とも、こちら前の方に来てください。」


 隊長や家老らと挨拶を終えたヒミカに勧められ、俺とクロエは部屋の奥、上段之間に近い場所に座る。


 広間にいる者が縦二列に別れ、お互い向かい合う形となって座っている。


 その中央には、この国の地図が置かれていた。


 広間にいる全員が座ったのを確認し、上段之間に座るヒミカが、作戦会議の開会を宣言した。



 ヒミカから見て右の列に、


 俺、 クロエ、 ロノウァ、 ヒミカ軍の隊長二人。


 左の列には、


 ジャホン国の家老 五人。


「あの、ヒミカ様。 まだ奴が来ていませんが‥」


 家老の一人がおずおずと言う。


「あの方がまだ来ていませんが、構わず始めましょう。」


気にせずと、にこやかに会議を始めるヒミカ。



「現在、勇者一行は東の国に向かっているとの情報があります。 目的は、おそらく魔王軍からジャホン国を奪還すること。

東の国の人間軍と合流し、このジャホン国に攻めてくると予想されます。 そして、」


 にこやかな表情から真剣な顔に切り替わる。


「ジャホン国奪還のついでに、この国の魔族を殲滅するつもりでしょう。」


ヒミカの言葉に、この場の魔族達に緊張が走る。


「敵国に囲まれた場所に立つ魔王城から避難された非戦闘員の魔族がこの国に多く住んでいます。

 私達は、その方達を守りながら戦わなければなりません。 」


 ヒミカの落ち着いた話し方の中に、言葉からは強い意思を感じる。


その意思を感じ取った魔族達が同意する様に真剣な顔で頷く。



「ヒミカ様、少しよろしいでしょうか?」


 角張った顔の男性で、家老の一人が声を上げた。


(名前がわからないから、家老Aと呼ぶ。)



「はい、何でしょう?」


「この国に勇者らが攻めて来た時、ジャホン国の人間達は、出兵しなければならないのでしょうか?」


「それは―」


「これだけはっきりさせて頂きたい。 どうなのですか?」


 家老Aが険しい顔で問う。


「''魔族のために働くなら、戦争に参加せずとも、独立国の形を保っても良い'' 、 これは降伏する条件として、我々にヒミカ様が交わした契約でごさいます。 覚えていらっしゃいますか?」


「ええ。 もちろん覚えていますわ。」



「この国は、貴方方魔族に協力してきました。 魔王軍に物資の支援、 軍の駐留や魔族の住む場所として土地も提供しています。

こちらは、貴女との契約を守っているつもりです。」


「そうですね。いつも、ご苦労様です。」


「もし…、もしもですが、 私達に戦争に参加しろとおっしゃるなら、そちらの契約違反になると思われますが?」


「う~ん、そうなりますね…」


 自分の頬に手を当てて困り顔をするヒミカ。


(つまり、 この件には関わりたくないから巻き込まないでくれって事か。 まあ、そりゃそうか。)


 話を聞く限りジャホン国は、魔族と同盟を組んでるわけではなく、占領されているだけの様だ。


勇者一行の敵は魔族であり、この国の人間ではない。


この国の人間からしたら、勝手に国に土足で上がり込んで居座り続けた上に、これからここで戦争しますって言われてる様なものだ。納得いかないだろう。


 しかし現在、 国を治めているヒミカに、占領された側が、戦いに行きたくありませんと言うわけにもいかず、逃げの口実として契約の事を持ちだしたのだ。


「そうですな。残念ですが、我々はこの戦に協力できそうにありませんな。」


「我々は 陰ながら応援しますので、出来る限り、町から離れた場所で戦っていただければ幸いでございます。」


 ふくよかな体型の家老Bと面長な家老Cがわざとらしい話し方で、家老Aの話に乗っかる。


「…完全に私達に協力する気がありませんね。」


 その様子を見て、クロエが俺にヒソヒソと小声で耳打ちする。


「…彼らが俺達にわざわざ協力する理由はない。 彼らに得があるとすれば、むしろ-」


俺は家老達の態度から、頭に過った考えを言おうとしたが、クロエはハッとなり、家老達の方を向く。


「勇者が来て、私達魔族を倒せば、この国は魔王軍から解放されるって思ってませんか?」


俺が言おとした事を、クロエが家老達に言うと、


「そ、そんな事は考えていません! 私達はただ、この国の人間を戦争に巻き込みたくないだけです!」


 先程、遅刻者の報告をしていた家老(家老D)が慌てて言う。


「本当ですか~?」


「ひぃ!?」


 クロエがじとーっと見ると、家老Dは変な悲鳴を上げた。


(クロエ相手にそんな怯えなくても。 )


 家老Dは落ちつき無くそわそわしながら、こちらをチラチラと見ている。他の人より魔族が苦手なのだろうか。


(そんなんじゃ、他の魔王軍幹部に会ったら失神するぞ。)


「心配しないでください。 私達魔族は、契約を守ります。 この国が戦場になるのは避けられませんが、からは、貴方方を戦闘に参加させる様な事はしません。」


 家老達にそう説明するヒミカ。


「おお、本当ですか!? それを聞いて安心しましたぞ。 」


「さすがヒミカ様だ。 魔族だけでなく、この国の人間の事も思っていらっしゃる!」


「この国の民も安心ですな。ワハハハハハ」


 緊張した面持ちだった家老達が心底ホッとした様な表情になった。


 俺も内心ホッとしていた。


(戦争してる世界とはいえ、人間同士が戦うのは良くないよな。)


 別に魔族と人間なら戦争しても良いわけではないが。


 占領された挙げ句、国が戦場になるのだ。


この戦いがどう転ぼうとも、この国の人達にはあまり迷惑をかけない方がいいだろう。


などと、この国に同情的な考えをしていると、

 

ガラッ


「ちょっと待ったぁぁーー!!」


『っっ!?』


(な、なんだ!?)


 大きな声と共に勢い良く襖が開くと、袴姿の男性がそこに立っていた。


 ふくよかな体型の家老Bが立ち上がって男性を指差し、


「お、お前っ、遅刻したかと思えば、大きな声を出しおって!びっくりしただろうが!」


「いやぁ、すまんの~。 通行証が見当たらなくて、なかなか国に入れんかったき。」


顔を赤くして注意するが、家老Bを軽く流す男性。


 男性は、家老側の列の最後尾の位置に座り、ヒミカと魔族側の方を向く。


「ヒミカ様、魔族の方々、今の話は無しじゃ。」


『なっ!?』


 驚いてその男性を見る家老’s。


『?』


 何事でこいつ誰?と首を傾げる俺、クロエ、ロノウァ。


 男性はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、


「【ジャホン国 人間軍】は魔王軍に協力して、勇者一行の迎撃作戦に参加するぜよ。」


 そう、宣言した。


「ちょっ、おま!?」


「何を言ってる!?」


 慌てる家老サイド。


「まあ…、本当ですか?」

 

と、驚いた様子で自分の口に手を当てるヒミカ。


 しかし、上座の近くでその様子を見ていた俺は、


(……おいおい‥何か企んでるな。)


 彼女の口の端が少し上がっていたのを、見逃さなかった。























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