第2話 寝るカミヒコウキ

 「ただいま」

玄関から、声が聞こえる。聞こえるが、返事が出来ない。出迎えることもできない。


 1年位前から身体を壊し、寝たきりになってしまった。元気なころを懐かしむが、生きている以上仕方がないことだと思う。


 家族に連れられ、病院を探したりしたが、手術はあまり結果が良くなく、今は自宅て療養している。


 趣味は、散歩。自宅の近くに、国立公園があり週末は良く行ったものだ。大きな広場で走る爽快感がたまらなく好きであった。


 公園に行くと、必ずやることがあった。


 カミヒコウキを飛ばす。色々な形がある。長く飛ぶもの。遠くに飛ぶもの。何度も回転するもの。


 カミヒコウキを飛ばすことも楽しいのだが、それ自体が目的なのでは無かった。


 言葉を飛ばす。


 カミヒコウキには、言葉を書いていた。誰かの一歩を後押しするために。


 言葉が届くかは、分からないのだが。きっと届いているのだろうと思っている。


 また、カミヒコウキが空の散歩を謳歌する姿を見たいものだが、そうはいかないのだろう。


 自分の身体は、自分が一番良く分かる。


 窓の外は強い日差しで、蝉の泣き声が止まない。夏は川でキャンプをするのも好きだ。来年こそは、身体を治して行きたいと思うが、叶うのだろうか。


 テレビからは、野球の中継が流れてくる。高校野球の時期だ。野球をやったことは無いが、キャッチボールは好きであった。


 テレビからは、歓声が聞こえる。勝負が決まったようだ。どちらが勝っても、いい試合であることには変わりない。応援や肩入れもなく、ただ聞いている。


 ただ、次の瞬間テレビの画面に釘付けになった。

球場の空に、カミヒコウキが舞った。


 なぜだか分からないが、涙か頬をつたった。

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