第18話 色づく夜ご飯
つむぐとの散歩を終え、僕は待ちに待った夜ご飯にウキウキしていた。
先生と読未先輩との勉強、更につむぐの散歩で疲れたお腹は空っぽだった。
「今日のご飯はなんだろう」
「多分ビーフシチューじゃねえか? 」
玄関前でリードを外しながらそう呟くと、つむぐは鼻をヒクヒクさせながら答えた。
人間だとここからじゃ家の中の匂いは分からないけど犬にはお見通しらしい。
「流石鼻が良いだけあるね。正解みたいだ」
玄関を開けるとお肉とルーの良い匂いが鼻腔を刺激した。
つむぐは得意げに鼻を鳴らして「すごいだろ」と言わんばかりの表情を浮かべている。
僕は適当に「はいはい、すごいすごい」と流しながらつむぐの足を拭く。
受け答えの適当さに気づいたつむぐは僕に噛み付く。噛み付くと言っても精神的に。
足をピンと立てて拭かれるのを阻止してきたのである。
「 …おい、拭きにくいだろ」
「お前がちゃんと人の話を聞かないからだろ。小さな反抗だ」
「やめろよ!そもそもお前人じゃないじゃないか!人に反抗するな! 」
「なんだと!心は人間そのものだろうが!ガキが俺に口答えするんじゃねえ噛み砕くぞ! 」
まだ小さい子犬の顎の力なんて自分が一番分かってるくせにと僕も噛み付く。
それにしてもやはり中身は大人なだけあって、脅しが絶妙に怖い。これは黙っておく事にする。
仕方なく言うことをきいてここは従順にになったふりでもしておこう。
「…ふん、やっということを聞く気になったか」
「ハイハイ、そうだよ。早くご飯食べたいでしょ?つむぐも最後の足、あげて」
ふてくされた態度は変わらなかったが、さっきよりかは脚を拭きやすくしてくれたように感じる。
こちらとしても早く母さんが作ったビーフシチューが食べたいのだ。
やはりこう言う時の意思疎通は他の犬よりかはだいぶというかかなり楽なんじゃなかろうか。だって喋る犬だもの。
なんて生産性のない考え事…でもないようなことを考えながらつむぐとリビングへ向かった。
食事はすでに用意されていた。さすが母さんだ。
「もう出来てるから手洗って席に着いてー!さ、食べよ食べよ! 」
僕は母さんの言う通り、手を洗って席に着いた。つむぐもちゃんと「おすわり」をして「待て」もしている。なんてお利口な仔犬だろうか。涙が出そうだ。
そんなバカにしている僕をいち早く気付いたのはもちろんつむぐだった。
『後で覚えてろよ』
そういったように感じた僕は初めて背筋がゾクっとした。子犬が見えていい表情ではない獲物を狩る猟犬のような目付きをしていた。
それでもビーフシチューはとても美味しかった。
吾輩は犬になった。 冬雪乃 @fhuyuno
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