第46話 防具屋のお仕事⑩ ラメラーアーマー

「いや……その、だからなんで僕が……」


 傷消毒用の軟膏をネジュリの肌に塗り込みながら、ブレザはブツブツ文句を言っている。チェインメイルに噛まれた肌と、ネアリに刺された虫刺され程度の傷に塗っているのだ。


「あ……ちょっと、そこはデリケートだから優しくね、優しくよ……そう、いいわぁ上手よぉ~~~~♡」


 脇腹に塗られ体をくねらせながら怪しい声を出すネジュリ。


「……………………」


 その仕草に頬を赤くするブレザだが、連日からかわれていると流石に慣れてきたのか慌てふためくようすはなく、わりと冷静でいられるようになった。


 そんなブレザに少し物足りなさを感じむくれるネジュリ。

 セーラはそんな二人には構わず次の防具をどうするか考えていた。


 話を聞くと、チェインメイルでの戦闘はかなりいい感じだったらしい。

 剣技はもちろん圧倒的にネアリが上だが、見の軽さではネジュリもそう見劣りする感じでもなかったらしい。

 当然、それだけでは太刀打ち出来ないがこの勝負はネアリの攻撃を1分しのげれば合格という条件でやっている。


 だとすればこのまま動きを生かした装備で行ったほうがいいだろう。

 そうなると最初のビキニアーマーに立ち戻るわけだが、しかしそれだとネアリの逆鱗を刺激してしまい、よろしくない。

 なのでネアリ好みの色気を押さえた慎ましやかなデザインかつ、軽さと防御力を揃えた装備を考えなければならない。


「あんまりダサいのは嫌よ? ネアリちゃんの元で修行する間ずっと着ることになるんだからカッコいいやつにしてね?」


 ネジュリが注文を加えてくる。

 この期に及んでと一瞬思ったが、しかし彼女の言うことも理解できる。


 いくら条件をクリアして弟子入り出来たとしても、その後どんな格好をしても良いわけじゃない。

 またビキニスタイルなんかで行ったらたちまちキレられて追い出されかねない。


 なので、選んだ装備はそのまま当面の格好となってしまう。

 そうなると多少はネジュリ本人の趣味も入れたくなるのは当然。

 ならば、機能性と防御力を兼ね備えつつ、デザイン的には真面目さとエロさを両立した装備……。


「なモンあるか~~~~~~~~ぃ!!」

 アホかとばかりにセーラはボヤいてみせるが、言ったところで問題は解決しない。


 防具とは武器と同じく、それを装備する者の格と威厳を表すものでもある。

 風格を求め、きらびやかな装飾を求めるお客様もいれば、百戦錬磨を気取りたいがため新品のうちからそれらしい傷を付けといてくれと頼んでくるお客様もいる。

 もちろんネジュリのようにファッション性を求めてくる人も少なくない。

 なのでそれらの要求に妥協無く答えていくと言うのも、防具屋の大事な心構えであるのだ。

 だからいくら無茶苦茶な要求でも、セーラは出来る限り何とかしようとアイデアを捻り出す。


「ベースはチェインメイルで良いと思うのよ……。これなら機動性と防御力は兼ね備えているしね……。問題は針に弱いという弱点と色気の無さよね」


 レザーパンツとブーツでそれなりに格好は整えられたが、それでもダサくないかと言われれば正直ダサい。だからこそネジュリは下にあぶないブラを着けるという暴挙に出たのだろう。

 それを止めさせるのならば代わりになる魅力的な何かを提供しないとネジュリも納得しないだろう。

 さらに針の対しての対策も考えなくてはいけない。

 普通ならその弱点を補うために、上にブレストアーマーや薄手のプレートメイルを重ね着するのだが、それをすれば重量が増してしまい非力な女性や援護職の者にはおすすめ出来ない。


「と……なると、ラメラーアーマーしかないわね」

 セーラは呟く。


「ラメラーアーマー? なぁにそれ?」

 聞き慣れない名前にネジュリは首を傾げる。


「ラメラーアーマーとはチェインメイルをベースにその上に小さな鉄板や木の板をうろこ状に貼り付けた防具です。そうすることで機動性を維持しつつ突攻撃に対する防御力も上げているんです」

「げ……それってアレでしょ『うろこの鎧』ってやつでしょ?? いやよ、あれなんだか半魚人みたいになって気持ち悪いんだもん」


 あからさまに嫌な顔をするネジュリ。

 たしかにデザイン的にはどうしても爬虫類的なイメージが出て、人によってはそれを気にする人もいる。

 しかしそれも工夫次第で上手いことすれば何とかなる気もするのだ。

 チェインメイルと同じく、パーツの組み合わせ具合でいくらでも形は変えられるのだから。


「う~~~~ん……だったらもっと肌にぴったりくるデザインにして欲しいわね。ほら胸とか鎖の重さにつぶされちゃって下がっちゃってるから、もっとこう膨らみを持たせて……」


「ふむふむ、膨らみ……と」

 お客様の要望を細かくメモするセーラ。


「あと腰のくびれも作って欲しいし」

「はいはい、くびれっと……」


「それからデリケートゾーンもさ、こう……見えなくするんじゃなくて、活かしていきたいわけよ。私的には」


「でりけ~とぞ~ん、もと……ん?」

 そこでセーラのペンが止まる。


「……それはどんな感じで? 場合によってはネアリを怒らせちゃうことになっちゃいますけど……?」

「だからぁ~~こうね、ワンピース水着みたいな感じでね」

「水着……なるほど……そういうコンセプトならギリセーフかも……。うん、その路線で行きますか?」

 そう言ってセーラはブレザと目を合わす。


 ネジュリに手を引っ張られ、無理やり下乳に薬を濡らされていた弟はさすがに血だらけの顔面をしながら『?』顔を返してきた。

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