第41話 防具屋のお仕事⑤ ラメラーアーマー

「そう……そこよ、ちょうどオッパイの先っちょに当てて……そうそう上手よぉ~~~~♡」


 なんとも如何わしい台詞が飛んでいるが、これはあくまで鎧の採寸作業の最中である。とは言え、それでは済まされないような背徳的な空気がわんさか溢れて来ているが、幸い今日は暇でお客は他にはいない。

 一線を超えそうになったら止めに入るが、それまでは傍観でいいだろうとセーラは黙って記録係に専念する。

 どうやら今度は力まず上手にいったらしい。


「きゅきゅきゅ、95センチです!!」


 測り終えるとサッと離れるブレザ。

 その仕草を見てプッと笑うネジュリ。


「トップ95……と、はい、じゃあ次アンダーね」


 でっかいのぉと舌打ちしつつ記録をするセーラ。次の項目を弟に指示する。


「?? ……アンダー??」


 真っ赤な顔をそのままに、鼻栓を詰め直しながらブレザは何のことやらと首を傾げる。


「……あんた、防具屋の跡取りのクセにトップとアンダーもわからないの?」


 ジト目をセーラが睨みつけると、


「わわわ、わからないよ!! いままで女の人の採寸なんてしたことなかったんだから!!」

「したこと無くても知識くらい入れときなさいよ!! ……あのねぇ、女性の防具にはその胸の形に合ったキチンとした加工が必要なの、そうじゃないと激しい動きの中ズレちゃったり、こぼれちゃったり、逆にキツすぎて肌を痛めちゃったりするから。普段着の服や下着でも重要だけど、硬さがある防具では特に形にあった物を着けるのが重要なのよ!! 男の適当な体とはワケが違うんだからね!!」


「そ、そうなの? ……でも胸の大きさならいま測ったよ??」


「それはトップ。それだけじゃその胸がどんな大きさなのかわからないでしょ?」

「わからないかなぁ……」


 はてな顔で髪を掻くブレザ。


「あんた……デカけりゃデカいブラ付けときゃいいって思ってる朴念仁タイプでしょ?? ……あのね、いくらトップが大きくてもアンダーも大きかったらブラのカップは小さくなるのよ」

「そ……そうなの??」

「そうよ、まったく……男どもって人の胸ジロジロ見るくせに肝心なところは興味なしなんだから、ほんと頭くるわ!!」


 セーラとネジュリは二人仲良く『ね~~~~』と意気投合する。


「はら、ぼーっとしてないで、ちゃっちゃとアンダーも測らせてもらいなさいな」


 ペシペシと背中を叩かれながら渋々また巻き尺を蒔き直すブレザ。


「く……くくく……」


 鼻栓越しにでも伝わってくるネジュリの色香に、鼻の奥がツーンとしてくるが今度はネアリねえさんに教えてもたった東洋の念仏を唱えてなんとか乗り切った。


「く……な、な70センチだよおねえちゃん……ぐふ」


 精魂尽き果て床に膝を落とす。


「はいはいアンダー70センチっと……ええ~~と……はいGカップね」


 くっそう……やっぱりデカいわねとボヤきながらメモる。


「あとのモロモロの採寸は私がやっておくから、あんたは奥で休んでなさいな」


 言って、肩幅やら袖丈などの箇所をチャチャチャと測ってしまうセーラ。

 そしてサササと表をまとめ見積もりを計算する。

 その流れるように手際の良い仕事っぷりを歪む視界で眺めながら、どう考えても跡取りは姉の方が相応しいよねとブレザは思った。


「はい、じゃあお値段銀貨3枚になります。明日までには仕立て直しておきますので、またお越しくださいね」


 と、引き換え伝票の木札をネジュリに渡す。


「オッケ~~じゃあ料金は前払いで置いておくわ。じゃあね、かわいい店員さん。また明日来るわね~~。 ぎゅ♪」


 銀貨を渡しながら最後のトドメにブレザを抱きしめるネジュリ。


「は、はうあぁぁぁぁぁっ!??」


 鼻栓の隙間から血をピュッピュ飛ばし痙攣する。

 それを見たセーラは『あざっす』と、代金を銀2枚にまけた。





 ――――次の日。


「うん、サイズぴったり。着心地もいいわね」


 朝イチで店にやってきたネジュリは出来上がったクロスアーマーを着込んで鏡の前でポーズを決めていた。


「あ~~~~……まぁそうですか、それは良かったです」

「んぐぐぐぐぐ……」


 それを見る微妙な表情のセーラと、またもや鼻血を我慢しているブレザ。

 クネクネと鏡に映る自分を鑑賞しているネジュリにセーラは尋ねた。


「その……上は良いんですけど……下はその……ビキニアーマーで良かったんですか?」

「え~~? だって、こうでもしないと色気無いじゃない、この服」

「まあ……そりゃアーマーですから」

 

 それでも注文通りに脇のスリットを大きくして、乳チラ仕様にしてある。

 しかしどうしても誤魔化しきれない上半身の無骨さを、下半身は修正が済んだビキニアーマーを装備することによって埋め合わせしたのだ。

 正直、デザイン的には無茶苦茶でかっこ悪いのだが、なんとなく男物のシャツを借りたお泊り女子の雰囲気をかもし出しており、そのギャップがおりなす掛け算のエロスに、純情なブレザの毛細血管は破裂寸前になっていた。


「よし!! これで装備はバッチリだしネアリちゅあんも認めてくれるよね。じゃあ早速いってくるわ~~!!」


 浮き上がるようなスキップで向かいの武器屋へと飛んでいくネジュリ。


 いいのかなぁ~~と言った表情で見送るセーラだがむろん良いわけがなかった。

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