第19話 魔術師のお仕事⑪ 魔法具
王都アストラ。
白鳥に例えられるほどに美しく大きなお城を中心にして、約10万人がその下に集まり日々生活している城塞都市。肥えた土に恵まれ農業も盛んだが、大陸のほぼ中心部に位置しているおかげで商業でもその名声は高い。
そんな観光客と商人だらけの大通りを、騒動を撒き散らしながら爆走している娘が二人。
デネブとマーシアであった。
二人とも一見して魔術師と分かる黒いローブを身にまとって、かたや魔導書、かたやステッキを振り回しながら走る姿はなにがどうしても目立ってしまう。
さらにそれを追いかけるガラの悪い冒険者風男女四人組。
通りを行き交う人々はみんな彼女らを見ていた。
「目がっ!! 目が涙で見えねぇ!!」
「何よ何なのよ!! またこれ魔法なの!??」
「馬鹿野郎っ、魔法なんかじゃねぇよ、なんか妙な粉を撒きやがっただけだ!! 痛たたたたさむさむさむっ!!」
「とにかくあのふざけた娘どもをとっ捕まえろっ!!」
目を擦り擦り、涙を洪水のように流しながら凍えた連中が身を捩りつつ意外と速い足で魔術師二人を追っていく。
なんだなんだと、そんな六人に道を譲るように人の群が割れていく。
「効いてる効いてる!! あいつら涙流してもがいてるよ(笑)」
「目くらましを使ったんか? それはなぁ『暴れ粉』の改良型でな、もっともっと細かくすり潰して、空中に漂うようにした物や。それが目に入ると激しい痛みと苦痛に大の大人も泣き崩れるで~~~~っ!! ただしあんまり人混みでは使うなや? テロと間違われて衛兵が飛んでくるさかいに!!」
「え? そ、そうなの!?? じゃあ他のにするわ!!」
調子に乗って全部撒いてやろうとしていたマーシアだったが、衛兵にまで追われるのはマズイとそれを胸にしまった。
「くっそっ!! んにゃろ、舐めやがってっ!!」
盗賊で足の早いドイロが怒り狂いながら二人に迫ってきた。
「じゃあ、代わりにこれを!!」
そこにすかさず新しい小瓶を振りかざすマーシア。
蓋の開けたれたその口からサラサラと白い粉が溢れ出した。
「んが? 何だこれ!??」
そしてそれを吸い込んでしまうドイロ。
――――途端に、
「げほげほっ!! は、ハックションッ!! ハックションッ!!!!」
と、くしゃみを連発し、うさぎのように飛び跳ね始めた。
「くしゃみの魔法か? それも刺激のある粉やな。とある木の実をすり潰して作るんやが、それが鼻に入るととにかく、くしゃみが出て止まらんようになるんや!! ちなみに料理に入れても美味しいんやで!!」
「だからそれ香辛料じゃ!??」
「八百屋で買うたらそうかもしれんが魔法屋で買うたら魔法具や、細かいことは気にせんでええで!!」
なるほど。
無茶苦茶な理屈のように聞こえるが、本物の魔法使いがこれも魔法だと太鼓判を押して来るのだ、マーシアにそれを否定する理由は何もない。
「だったら私、いま魔法を使ってるってこと!?」
「そうや、現に相手が怯んどるやないか、あとはそれらしく呪文を唱えればそれで立派な魔法の完成やちゅうねん。わははははははははっ!!」
「あ!! え~~と……闇の世界の住人たる悪魔の精霊よ、向かい来る脅威からその光を奪いなんたらかんたらごにょごにょごにょ!!」
「ごにょごにょじゃねーーよっ!! 遅せーーーーよっ!! いまさら体裁整えてんじゃねぇよ!! ただのコショウじゃねぇか、ふざけんなっ!!」
鼻水で顔中をぐしゃぐしゃにしたドイロが怒鳴り散らす!!
他の三人も鼻をつまみながら追いかけて来た!!
「コショウ言うな!! それは禁句じゃボケぇっ!!」
叫び返しながら逃げるデネブ。
二人は注目を集めながら大通りを走り抜ける。
途中で水売りのオジさんが、
「はいよ、デネブちゃん。ツケにしとくよ」
と、特製果汁ドリンクを二つ投げてよこしてくれた。
「おおきにおっちゃん!! ちょうど喉カラカラやったんや!!」
走りながらキャッチする。
「また今度、下が元気になる魔法具買いに行くからよ、用意しといてくれよ!!」
「なんや、また子供欲しいんかい!?」
「俺がじゃなくて嫁がだよ!」
「そらしゃあない。わかったで~~~~おおきにっ!!」
走り去りながら商談をまとめる。
「ほい、これ。この国の特産果実、ムカンの実を絞ったジュースや、ごっつうまいでっ!!」
「う、あ、あ、あ、あうんっ!!」
放り投げられた瓶をわちゃわちゃしながら受け取るマーシア。
そのはずみでローブから魔法具が一本こぼれ落ちた。
――――ガシャンッ!!
石畳の上で割れてしまう小瓶。
中から透明の液体が流れ出てくる。
「うわっ勿体ないっ!!」
慌てて立ち止まるマーシア。
「何してんねん、落っこちたもんはしゃーないわ、今は逃げるんやでっ!!」
すかさず手を引っ張るデネブだが、その少しの間に冒険者たちに追いつかれてしまう。
「馬鹿め、追いついちまえばこっちのもんよっ!! 魔術師なんて所詮は接近戦に弱いもんだっ!! もらったぞっ!!」
盗賊の次に身軽な剣士のカタスが一足先に突っ込んできた。
背中からロングソードを鞘ごと引き抜き、襲いかかってくる。
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