第一章

第一部「英雄たちの、子孫たち」

第1話

 ――4月7日。


 入学式を控えて、桜が舞い散る通学路には真新しい制服を着こなす生徒達で溢れかえっていた。そんな折、私こと『遠藤ほのか』もまた、今年から中学生になりました。


 好きな科目は体育、嫌いな科目は算数と理科。

 動くことが大好きで、最近のマイブームは愛犬のシンヤと一緒に散歩することです。


「ん、んん~~!!」


 私は空に向かって腕を伸ばし脱力する。


 小学生の頃とは打って変わり、私服ではなく制服を着ているわけなんだけど。


 意外とこう、身動きが取りにくいなというのが正直な感想だったりする。でも、よくよく考えればそれが当たり前なんだよね。私服は動きやすいのが特徴なわけだし、それと反対に感がれば。


「……暖かいなぁ」


 春の陽気が身体全体に伝わって来て、何だか外にいても自然と眠くなりそう。

 登校中に寝るなんてことしたことないけど、実際にそういうのってあるものなのかな。漫画とかそういうの、あまり読んだことないからわかりっこないけど。

 と、そんな感想に現を抜かしていると……、


「――おーい! ほのかー!」


「……あ。結翔ゆうと、それにりんちゃんも」


「おはようございます、ほのか」


 登校中だった私の後方から駆け寄ってきたのは、同級生で幼馴染の男女2人。


 茶髪がかった髪に黄色のメッシュが入った男子は『保守ほもり結翔』。商店街でも有名な定食屋の息子で、スポーツ万能の特待生。小学生の頃ではサッカー部のエースをしていたこともある。けど男子の中でも、割と小柄なことを本人も気にしていたりするらしい。


 そして、お上品な振る舞いをみせる黒髪のロングヘアーに、花模様のピン止めを付けているのが『星園ほしぞの麟』ちゃん。様々な企業をひとまとめにする『星園グループ』の令嬢で、今現在も資金の運用という仕事を任されているらしい。……常人には、あまり理解が出来ない領域なんだけど。とにかく、国の運営においても大事な仕事らしい。


「にしても、今日はえらく早いじゃんか」


「何が?」


「信也さんのお墓参りだよ。いつもだったら1時間以上滞在してるくせに、今日は切りあげてくんの早いんだなぁと思ってさ」


「さすがに入学式を置き去りにはしないよ……。その代わり、後で散歩がてら寄るつもり」


「げっ……また行くのかよ。本当、遊んでもらった記憶が抜け落ちてる孫の行動にしては、明らかに異常だと思うぜ? オレも婆ちゃんの墓参りは月に何度かってぐらいだし」


 うーん、そうなのかな?


 時々、お兄ちゃんからも『また行くのかよ……』と呆れたような言葉が漏れたりすることがあるし、やっぱり私って頻繁に通い過ぎなのかな。毎日塾行く学生と変わらなくない?


「あんまり気にしたこととかなかったかな。毎日学校行くみたいなもんだし」


「休日も行く気か?」


 ……あっ。確かに休日に学校は嫌かも。

 学校行事とかで行くならまだしも。雨の日と運動会が重なって、結局その日は授業になるようなものだし。


「……やっぱ嫌かも。うーん、じゃあ――平日に学校行くようなもんで!」


「でじゃねぇよ、でじゃ……」


 否定意見ぐらい取り扱ってくれてもいいだろうに。

 運動バカに見えて、結翔って結構頭良いから本能が受け付けないのかもしれない。


「はぁ……。わかってませんね、これだから低能は」


「あっ!?」


 すると、麟ちゃんはため息を吐いたかと思えば、急に結翔を罵倒し始める。

 そんな彼女の反応にいち早く敏感に反応したのは、罵倒された本人だ。

 ……あぁ、やばい。


「いいですか? ほのかのこの優しさは、純粋な祖父へと想いから生じているものです。大好きな人のお墓参りを徹底するのが悪いことだと? そんなことはありません。これは、ほのかの優しさ故です。それを否定する権利が、あなた如きにあると思ってるのかしら? 随分とあなたもえらくなったものですね」


「……本当、お前の無茶苦茶な理論は、聞いてて頭痛くなるぜ。オレとほのかの考えは違ってて当たり前だろうが。オレはあくまで“自分の意見”を言っただけだ。さぁて、一体この中のどこに否定の意味が込められてるって言うんだろうなぁお嬢様よ……!!」


「……ほんと、生意気ですね」


「それはお互い様だろうが」


 2人の間に『対立』と取れる閃光の火花がぶつかり合う。

 両者共に激しい眼光を放っており、とてもじゃないけどこの間に割って入るのは不可能だと脳内がそう訴えかけている。


 けどこんなの、今に始まったことじゃない。


 私達が出会って約1年後には――今のような光景が日常の中に落とし込まれていた。麟ちゃんと結翔は『超』が付くほど仲が悪い。私が間に入るときは少し仲が悪い程度に抑えられるけど、1つでも均衡が崩れるとすぐに仲違いが起こってしまうほど、絶望的までに相性が悪いらしい。……どうしてなんだろう。


「今、何勝中だ」


「49勝49敗74引き分けです。私としては、許せない結果ですけれど」


「はっ! 奇遇だな、オレもその数字には苛立ちを覚えて仕方ねぇぜ」


「あ、あのさ……、そんなことよりこれから入学し――」


 何とか2人の意識を逸らそうと試みたが、そんな私の言葉など耳にも届かないと言った様子で、2人は瞬間的に距離を取って構える。


 現在朝の10時を過ぎた頃――いくら入学式まで1時間はあるとはいえ、学校に行って確認することや事前準備などはたくさんある。そのために、今現在この通学路には、たくさんの新入生とその保護者達が群れを成しているわけで……。


 ま、まさかとは思うけど、こんな人の目が多い場所で“本気で”やり合うとか言い出したりしないよね……!?


「手加減なんて、要りませんからね?」


「誰に向かって口利いてやがんだ、んなの当たり前だろうが」




 ――見事なフラグ回収、お疲れ私。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る