手の中から逃げたもの

 起きてることは殺伐としているけど、喩えるなら少年が無邪気に虫を捕まえようとする姿を思った。手に収まるほどの虫が捕まえた気でいてなかなか上手くいかず、ムキになって追いかける。いざ捕らえてみると力が強すぎて握りつぶしてしまうような。
 語り手は後悔もないというような言葉を並べるが本心は揺れているように思えた。本質的な部分は根ざしたまま形だけは大人になって、それは身なりの変わった幼馴染も同じであり、かつての関係性もまた変わることなく帰郷へと繋がる。テーマである「幼馴染との旅」共にある姿は中々エッジのきいた表現で僕は好きでした。ここまでめちゃくちゃに踏み外すことなんてとは思うけれど少年時代への回帰の中で語り手の姿も荒唐無稽な幼さに向く。回帰、過去、帰郷と逆行しながらも退路が悉く消えていく様には自分が最も生を実感出来た頃に自らも留めておきたいというような淡い期待を思わせる。