努々

脳を洗う

 人という動物は、人と呼ばれる知性体は、外的要因から与えられる刺激を情報として蓄積した結果、一個の個人として自我を発露していく。

 より情報が少ない時期に与えられた情報を基礎として自我を形成する傾向が強く、一般的にはある程度以上成長した段階だと、余程強烈な出来事でも無い限り、自我に多大な影響を与え、性格が大幅に変わるような事態は起こりづらい。

 外部からの刺激によって対象に干渉し、意のままに改編を行おうとすれば、それ相応の極端な刺激を与える必要がある。


 新たにセウドニンと名付けられたアガタは、自らのと表現するべきではないが、自らの肉体に存在している記憶にある他人の自身の成果物を実施している。

 彼の目の前には一つの人の物が存在した。

 様々な情報を過剰に与えて人間から、血肉の詰まった肉袋に仕立て上げた物が吊り下げられていた。

 全身至る所に深々と突き刺さった針。

 目元には強烈な光を放つ魔道具。

 耳には大瀑布を有に越す大きさの音。

 焼け焦げるような刺激臭がする香が焚かれ、人が口にするのを憚れるような刺激物が口蓋に突き込まれている。

 五感全てに過剰な刺激を与えられ、神経が、脳が処理しきれない程の情報を問答無用で与えられ続けている。

 どんなに鍛え上げられた肉体と精神を持っていようとも、その刺激に慣れる前に精神がダメになる程の刺激を数日受けた結果、嘗て人だった物がそこに在った。

 それはまるで強烈な水圧で洗浄するかの如き結果を招く。

 脳に蓄積された情報は、それが嘗て自我を形成していた諸々の全てが流されてしまった。

 成長した肉体、洗い流された記憶。

 後は望む結果になる様に、外部から刺激を与えて好きなように仕上げるだけだ。

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