掌握

 流のモンスター狩猟者に扮し移動すること数日、二人は目的地であるフラ村に到着した。

 一見して何処にでもあるような農業を営む村であるが、此処には日夜地面の下で鍛錬を行い、フロレスク伯爵に仕える為に自己研鑽に励んでいたり、密偵としての活動の中枢としての機能が備わっていた。

 そんなフラ村到着早々、マドカは顔形を変える為の施術を受ける事になった。

 マドカは自分の顔の容に対して特に感慨なども無かった為、これを二つ返事で了承した。

 むしろ、今後フロレスク伯爵庇護下の元、どの程度まで自身の探究心を発露出来るものなのかと考えを巡らせることの方に意識が向いていた程だ。


 このマンニュム大陸の平均的な文化水準は、ライトノベルで語られる様な中世後期頃である。地域によっては近世に足を掛ける程度の違いがあるが。

 ただ、魔法使いが絡んでくると話しが変わってくる。

 このマンニュム大陸では、生活に活用出来る程度であれば、多少の手ほどきを受ければ誰でも魔法行使を行うことが出来る。

 だが、本格的な―戦争で使用したり等―活用をする場合は、それ相応の教育を受ける必要がある。

 そうはいっても、時折麒麟児と呼ばれる子供が生まれ、教育というプロセスを経ずにこういった魔法を行使する者は時折誕生するのだが、それは此処では配慮しないものとする。

 一般的には魔法とは、生活魔法に分類される低出力の魔法以外の行使に、専門の教育を受ける必要がある為、高度人材として位置付けが為されている。

 さて、この魔法行使者達なのだが、彼等の能力というものは容易に中世の文化水準というものを飛び越えてしまう存在だ。

 空を飛び、爆煙を発生させ、遠くの場所に転移をし、人では持ち運べない量の荷物を保持する。

 こういった事が出来てしまうのが魔法使いだ。


 このマンニュム大陸の平均的な文化水準は、ライトノベルで語られる様な中世後期頃であるが、魔法使いが関わってくると話しが変わってくる。


 マドカは麻痺を与える魔法を行使され、感覚を麻痺された上で顔の皮膚を剥がし、形を変えたい部分の肉を削ぎ落とされた。

 顔の筋肉が露出し、所々骨が見える程にまで削ぎ落とされた見るも無惨な状態だが、マドカ本人は至って冷静。

 これはマドカの精神性によるものも多大にあるが、痛みを感じないように魔法が使用されていると云うのが理由だろう。

 如何に自分の顔形が変わることに無頓着であろうとも、マドカは痛みに無頓着では無いからだ。

 皮を剥ぎ、肉を削いだ後に行われるのが、回復魔法を応用した造形だ。

 この整形魔法とも呼ぶべき魔法であるが、実際には唯の治癒魔法である。

 ただし顔形を任意の形へとする為には、熟練した経験と技術が必要になってくる。

 フロレスク伯爵子飼いの密偵達は、その隠密性を維持する為に定期的に顔を変える。

 その為、こういった整形魔法に熟知した人材の育成に力を入れているのだ。

 永い年月フロレスク伯爵家に仕えている間に培った技術が今、マドカへと施されようとしていた。

 そして、マドカはその日のうちに別人の顔を手に入れた。

 将来的に、フロレスク伯爵家へと召喚される可能性が高い為、このスードヴェス王国で見目麗しいとされる特徴を有しながらも、村落出身者である事がみて解るようにされ、無骨さを併せ持った美丈夫が誕生した。

 彼の名前はフラ村のセウドニン。

 世の中に時折生まれる麒麟児として誕生した。


 類い希なる才能は、セウドニンが村で生きていくことに窮屈さを憶える理由となった。

 彼は先頃婚姻を結んだ幼馴染みの村娘、ノウアと仲睦まじく生活をしていたが、一念発起してスプレ・ク・ラウへと向かうつもりでいる。と、云う設定が与えられ。

 それになぞらえ教育が施されていく。

 とはいえ、基本的にはフラ村でどの様な生活を行っていたのかという、演技をする為の情報を憶えることが主であった。

 その一環として、マドカ…セウドニンの直護衛を務める為に、便宜上とは言え夫婦関係になったセウドニンとノウアは、スプレ・ク・ラウでの生活で疑念を抱かれないように、この教育期間を活用して夫婦として行う当たり前の生活を営み、極自然にそれを行えるようにしていった。

 事情を何も知らない他人からみたら、非常に仲睦まじい夫婦であると見えるだろう。

 だが、セウドニンという男は、そんな生やさしい男ではなかった。

 彼は探求者だ。

 そして、探求して得た仮説を、確立した技術を、試したいと思うのがこういった人種だ。

 セウドニンは、自らに入力されたひらくまどかとしての性質と、この肉体の元の持ち主の精神性に引っ張られた。

 その結果、ノウアは壊されていく。

 ノウアが永い年月を掛けて培ってきた密偵としての日々が、それによって形成されている自我は崩されていった。

 そして、その様を見ていた密偵達は、それを素晴らしいと思った。

 この技術があれば、より効率的に情報を取得することが出来るし、裏工作も容易になると。

 密偵達はセウドニンのその技術と知識を欲した。

 そして、セウドニンは欲されるが侭にそれらを与えた、だが、まだセウドニンは全てを曝け出した訳ではなかった。

 セウドニンは、ノウアを贄として密偵達の気を引き、少しずつ少しずつ発言権を高めていった。

 警戒されないように、反発されないように、慎重にされど大胆に。

 フロレスク子飼いの密偵がセウドニンの技術や知識だけではなく、セウドニン本人に傾倒するようになるのに、それ程の時間は掛からなかった。

 何故ならば、セウドニンが彼等に与えたのは、技術や知識だけではなかったからだ、魔法による彼等への精神への干渉も、彼等密偵に与えていたからだ。

 密偵達は気付かない。

 ノウア程の強烈な掌握ではないが為に、徐々に徐々に影響を与えられたが為に。

 ノウア以上に自分達が、自分達で無くなっていることに気付けないでいた。

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