隠れ家で一時の休息

 人目を避けて宵闇の中を走り抜ける二つの陰。

 村々を繋ぐ為の道路を避け、畦道を颯爽と駆け抜けるマドカと密偵は、夜半を向かえた直後程にペス村の南に位置するアールチ村に到着した。

 密偵はマドカを微かに視線に捉える。

 密偵として練り上げられた自分に余裕の表情で付いてくるその人を。

 話しには優れた研究者・技術者と聞いていたが、それだけではなく優れた身体能力と、優れた身体操作技術も持ち合わせているようだ。

 夜の暗がりの中危なげなく付いてきた事に驚くと共に、息一つ乱さず着いて来られていることにも驚きを持っていた密偵であった。


 アールチ村に付くとその足は歩きとなった。

 村の中をしばらく歩くと目的の宿屋に到着した、裏手に回り宿屋の壁に対して合図を送る。

 コンコン・コン・コン・ココンと軽くノックをすると。

「今日の天気は?」

「九つの旋風つむじかぜは駆ける」

 木の閂が外される微かな擦れ音が聞こえると、扉がズズと横に開かれていった。

 密偵の後に続き、一見すると唯の壁に見えるように細工された引き戸から、マドカは中に入っていった。

 二人が中に入ると扉はズズと閉じられ、そこには何の変哲も無い宿屋の裏手の壁が在るのみであった。


 中に入るとそこには二人の男がいた。

 だが、その二人はマドカ達に何か言葉を発することなく夜番を続け、まるでそこにマドカ達等居ないかのように振る舞ってるが、一人の男が徐に立ち上がり二人の後を着いいく。

 この場所の管理者の動向を一瞥しつつ、ここまで案内してきた密偵の後を付いていくマドカ。

 少しすると「旋風」と描かれた木の札が掛けられた場所へと到着する。

「私達は予定通り明日、旅の狩猟者として出立します」

 と、着いてきている管理者に告げるマドカを案内してきた密偵、その後密偵は足下にある用意されていた籠を拾い上げ、木の札を裏返し×と書かれた面を見えるようにすると。

 宿屋の部屋側からは唯の壁に見えるように細工された、宿屋の部屋側からは空けられないようにしている細工を解除して、宿屋本来の宿泊場所へと続く隠し扉を開いた。

 マドカと密偵が宿屋の部屋に移動するのを確認した、二人の後を着いてきていた管理者の一人はその場に待機した。

「まずは此処までの道中お疲れ様でした。

 明日は日が昇り終えたら出立をします。

 流れのモンスター狩猟者として移動をしますが、対話などは基本此方で行うので任せて下さい」

 そう言いつつ、密偵としての装束をスルスルと脱いでいく。

 胸が揺れないようにきつめに巻かれたサラシ、鍛え抜かれながらも女性らしいふっくらとしたライン、それらを隠しもせずに晒すと、拾い上げた籠の中に用意されていた狩猟者を装う為の装備を身につけていく。

 そして、これまで装備していた装備一式を、狩猟者の装備が入っていた籠へとしまい壁へとノックをする。

 すると外で待機をしていた管理者が籠を回収していくと同時に、宿屋側からは入れないようにする為の細工を再び掛けるのだった。

 マドカは内心、密偵の見事な身体に感心をしつつも、身体を休める為に床へと付いた。

 部屋にあるのはベッドは二つ。

 二人はそれぞれのベッドに入り身体を休めた。


 朝日が昇り始め、恒星の煌めきを受けて起床する二人は、外套のフードを目深に被り目的地となる、フロレスク伯爵子飼いの密偵が、隠れ里として管理しているフラ村へと足先を向けた。

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