巻き込まれる二つの王国と、巻き込む二つの宗教

アーデンの森のエルフが新たに信仰しだした神

 アーデンの森は、北にノールデングラシャン王国、南にスードヴェス王国が存在している。

 この二国は西側は国境が接している地域だ。

 だが、この国境が存在する地域は、都市が発展出来る程の開けた土地がない為、過去に起きた領土争いにはあまり関わりの無い地域だった。

 その反面、二国に跨がり南北に存在するヴィス・カデレブルスカ山脈を隔てた東側、山脈東に位置するアーデンの森とヴィス・カデレブルスカ山脈の間で過去領土戦争が行われていたが、今はこの辺りのアーデンの森も含む地域は両国間の協定で緩衝地帯として扱われていた。

 そのような時代があったが、今は表面的には平和な時代が続いていた。

 アーデンの森のエルフ達はこの二つの国家に挟まれながらも、長い寿命に裏打ちされた技術の高さをもって、少数の部族ながらも過去の二国間の闘争に必要以上に巻き込まれない様に森を守っていた。

 クルや多くのエルフ達は当時の事を憶えているが、短命であるノールデングラシャンとスードヴェスの住民達が、既にその事を過去の事にしつつある事に対して理解はしていた。

 感情面はさておき、理性的な判断をする事が出来る程には時間が経過していた。クル達長命種の時間間隔で。

 さて、そういった事情から、この二国とは拒否をしないまでも、やや距離を離した付き合い方をしてきたアーデンの森のエルフ達であるが、ここに来てこの二つに国家に対して積極的な交易をする傾向が見受けられる様になった。

 これは、ピオニア達が自らがアーデンの森に広めた宗教面からの侵略…、積極的学習の成果による変化に因るものであった。


 それまでクルを中心としてきたアーデンの森のエルフ達の変化は、この交易を通じて両国へと情報が流れ始めていく。

 最初はエルフの各部落へと出入りする商人達から流される噂話程度のものだったのだが、エルフ達自らが積極的に森を出て両国それぞれの村落などへ姿を現す様になると、その村落に派遣されている騎士階級の貴族達によって寄親へ情報が渡り、さらに階級の高い貴族へと情報が伝播していった。

 その情報の中には勿論ピオニア教なる、新たな信仰に目覚めたという情報も有ったため、この両国だけではなく、この大陸…マンニュム大陸全土で広く信仰されるエタ教を刺激する事になった。


 このマンニュム大陸では、神を信仰の対象とする宗教はエタ教しか存在しない。

 その他の宗教は、自然崇拝であったり、祖先を敬ったりする宗教ばかりであった。

 これは、過去の宗教戦争でエタ教が神を崇拝する宗教を一掃した事により、この様な状況になっている。

 創造神を信仰するエタ教にとって、自身が信仰する神以外を信仰する宗教とは非常に相性が悪かった為、他宗教の排斥運動が為された。

 そして、長らく神を信仰する宗教が存在してこなかったこの世界で、新たな神を信仰する宗教が現れたのだ。

 これにエタ教の信徒達が何も反応をしないという判断をする訳がなかった。

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