突然変異の限界

 生物が今日こんにち何故そのような姿形となっているのか、それは度重なる変異の中で、絶滅せずにそれを引き継ぎ続けてこれた結果だ。

 連続した偶然の結果としてそこに有る結果。

 偶然が重なり続けた事による得た必然。

 だが、偶然の産物であるが故にそれは計画されて生み出されたものでは無い。それが故にその身体には様々な不都合が残る事がある。

 これは知的生物種と呼ばれる動物にも言える。

 有名なところでは、光受容体が逆向きに着いていたり、気道と食道が合流していたり、体内で身体を維持する為の栄養素を作れなかったり、脳を肥大化させた所為で未熟な成長状態で出産をしなければならなかったり。

 身体の欠陥は上げようとすれば幾らでも言える程有る。

 だが、制御されていない進化の限界は技術で補われた。

 計画的に設計図を引かれた身体の製造。

 そして、作られた肉体へと精神を移動する術の確立。

 彼等知的生命種は、生物が行ってきた進化の方法を捨て、技術による発展を行った。

 より高い技術を、より効率的な設計を、意識的に、意図して行い続けていた。

 故に現在の知的生命種は既に動物という分類では図れない存在までになった。

 その肉体は魔法回路を組み込まれた半有機ミスリル繊維。

 オリハルコンの骨格。

 頭蓋内を無重力化し、高圧縮した魔素を封入した魔素脳。

 身体を維持する為のエネルギーは無重力化した事により、光を優に越す速さで動いている魔素の流から発生する魔素を流用。

 その他様々な臓器は計画的に設計された設計図を元に作られた。

 それでも、経年劣化からは逃れられなかった。

 この寿命も今の知的生命種は超えている。

 意識を別の身体に移せる技術は既に持っているのだから、新たな身体へと意識を移せば良いだけである。

 動物の枠を超えた元動物。

 だが、彼等は知的生命種という精神の枠組みを超える事は出来なかった。

 その精神は本能が無ければ生きられなかった、それ故に本能は強化され、それを実行出来るだけの能力も肉体に残した。

 より長く生き続ける為に。

 だが、この様な寿命を超越した存在は無制限に増やされはしなかった。

 種としての新陳代謝が無くなる事を恐れたからだ。

 だから、この様な肉体を乗り継ぎ寿命の軛を逃れた個体はそれ程多くはない。

 それも、宇宙という規模で見ればそれなりの数がいる事にはなるのだが。


 自然環境の中で獲得した肉体は、兎角欠陥と呼べる様々な臓器を抱えている。

 エフダンザーの肉体もそうだ。

 クフが如何に長命を誇ろうとも、例えクトーの系譜であろうともそれは変わらない。

 だが、此処には技術があり、そして、未だ一つの国家として認証されてはいなくとも、それに類する権限を保有している存在がある。

 その存在は生き続ける為に本能を強化された存在だ。

 ピオニアは彼の本能…欲望の望むままに、エフダンザーという個を失わせない様に、彼女の肉体を新たに設計し、そこに彼女の意識を載せ替えた。


 エフダンザーは多幸感に包まれていた。

 神に捧げられるだけでは無く、その神の力によりその心を、その身体を新たに用意されたのだ。

 これで、いつまでも、いつまでも、神の御許に仕え続ける事が出来る圧倒的な幸福を彼女は感じていた。

 エフダンザーは生物という枠組みを超えた存在になった。

 それは、生物の枠組みに居る存在からすれば、神と呼べる存在だろう。

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