ベトナムの花嫁

平成21年5月5日、僕はベトナムで舞台に上がっていた。


ゴールデンウィークにひとり旅行に来ていた。ホーチミン市から時間の許す限りひたすら北上しようと思った。バスに乗って、古都フエまで向かっていたら、夜八時くらいにバスを乗り換える段取りだったんだが、僕だけバス会社の人に止められた。片言で、話をきくと、どうやら僕の席はダブルブッキングされていたようで、僕は乗れないとのことだった。ここで騒いでも仕方がないので、じゃあホテルを手配してくれと頼んだら、あっさりホテルを手配してくれた。 ところでここはどこ?ときくと、「ニャチャン」と言われた。


ニャチャンはフエからだいぶ南の、あとで調べると、海の美しいリゾート地らしかった。せかせか旅行をする質の僕にとっては、リゾート地に留まるつもりなどない。翌日、使えなかったバスのチケットを使って、フエに向かうためのバスを待っていたら、突然、


「日本人?」


と尋ねられた。ベトナム人の青年が二人いた。日本語を使えるようだった。片方が、


「僕、日本で働いてる。結婚するためにベトナム、二週間、帰ってきた。明後日結婚式。」

「へぇ~」

「来る?」

「え?」


面白そうなので、行くことにした。さすがに嘘はついていないだろう。バスチケットは座席指定までしていたので失効してしまったが、こっちの方が面白そうだ。急遽ホテルを延泊することにして、ニャチャンに滞在することにした。 翌日、ネクタイを買いに市場に行った。少し、派手なやつを買った。


二日間、何もすることがないので、しょうがなく、ビーチに行ったが、一人でお金とパスポートを持ってくつろぐことはできなかった。


鶏の足とビールを出す屋台を見つけ、そこに入り浸って二日間過ごした。 結婚式当日、騙されているかも、と少しだけ思っていたが、まさにその人の結婚式があっていた。ご祝儀を払って、会場に行った。会場は自由席だった。


ベトナムの結婚式も、日本と似たような段取りで進んでいった。違うことと言えば、室内でガンガン花火を使うことと、バンドが控えていて、歌いたい人が前に出てマイクを握ると、即興で伴奏をしてくれるということだ。 突然、僕の隣に座っていた、結婚する人の相方が、


「歌、歌ってくれない?」


と言ってきた。 異国の宴ですっかりいい気分になって、リラックスしていた僕は急にびっくりした。


「いやいや、ベトナムの歌、知らないよ。」

「日本の歌。歌う。」

「バックの音楽、ないよ!」

「いい、いい。声だけ。日本人、歌う、みんな、喜ぶ。」


そうとまで言われて、断るわけにはいかなかった。しかし、アカペラで歌詞を覚 えている歌、歌、歌・・・お祝いの歌。僕は酔っぱらった頭で一生懸命考えた。 式の様子はビデオカメラで撮影している。お祝いの歌で、歌詞を知っているやつを歌わないといけない。そして、ビデオカメラを日本で上映されることを考えると、その場しのぎではなく、真にお祝いの歌じゃないといけない。 考えろ、考えろ・・・・


「歌の順番,来たよ。」


ステージに上がってしまった。 異国で思いがけない余興。歌ったのはPUFFYの「愛のしるし」。これしか思いつかなかった・・・。なんつーか、恥ずかしい。一応、お祝いの歌でセーフかな。夫婦も、家族も友人も喜んだはず。知らないけど。


恥ずかしついでに、二次会行く?行く?ってノリも日本とそっくりだったので、二次会、三次会に強引に行って、言葉分かんないけど、ひたすら飲んで、みんなで一緒に締めのフォーを食べた。

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