廻せ命のスロットマシン

僕は香港観光後、マカオに来ていた。学生時代、まだ、カードとか持っていなくて、現金がものをいう時代。


マカオ観光を終えると、翌日香港国際空港から日本へ帰る。


マカオと言えばカジノ。ホテルにチェックインして、ホテルで保証金を預けろという話になったので、面倒くさいから宿泊料金を前払いした。そして、さっそくカジノに来た。


人を相手にするのは言葉が通じなくてつらいので、ひたすらスロットマシンをしていた。やり始めるとつい熱くなって、これはとことんやらないと、という気分になってきた。


たまに当たるが、少額。状況はジリ貧だった。しかし、やめられない。ギャンブルって怖いな。 明日、マカオから船で香港に戻って、空港まで地下鉄で行って、飛行機に乗ってしまえば、日本に着いたらあとは銀行のキャッシュカードでお金をおろせばいい。


もう晩ご飯、朝ご飯食べられなくてもいい。とことんまでやるぞ。


船の料金と、地下鉄の料金を財布から取り分けて、残りのお金を全部コインに替えた。


なかなか当たらない。相変わらずのジリ貧。みじめだな。よく考えたら、海外旅行に来て、晩ご飯、朝ご飯なしって。せめて、そのお金も取り分けておけばよかった。


ガシャ、ブルルルルルルル、キュン

ガシャ、ブルルルルルルル、キュン


当たり前だが、なかなか当たらない。あーあ、海外旅行に来て、最後はメシ抜きか・・・。機内食までなんにも食べられない。バカなことをした。空港に水飲み場はあるかな。水は飲まなきゃやってられないな。


空港での入国手順をなんとなく思い浮かべる。 あ、空港使用税!空港使用税がいる!なんてこった、取り分け忘れた。メシ抜きどころじゃない、日本に帰れない! 真っ青になった。


コインは残り少ない。払い戻しても空港使用税分にはもうならない。


僕は空港を出発できない。どうすりゃいいんだ?でも、今はこのコイン、使うしかない。ああ、ああ、ダメだ。どうしようもないけど、今はスロットマシンを廻すことしかできない。


僕がやっているスロットマシンは回転するリールが四つあり、横に三列表示される。コインは四枚まで賭けられ、一枚~三枚で各列の三つ目のリールまで、四枚でリール四つに賭けられる仕組みになっていた。


四枚ずつ賭けて、どんどんコインは減っていった。ついにコインはあと三枚。これでおしまいだ。空港使用税どうする?真剣に考えないと。ああ、もうおしまいだ。絶望の中で運命のスロットのレバーを引いた。


ん!


目を疑った。フォーセブン。7777。最後の最後に一発逆転。奇跡だ!


どんどん、コインがスロットマシンから下皿に吐き出されてくる。三枚しか賭けられてなかったから、絵柄はフォーセブンだが、スリーセブン分しか当たってないことになっているが、それでもじゃんじゃんコインが出てくる。


それを見て、次々とカジノにいた地元の女性が僕に声を掛けてくる。


「マイルーム?ドゥリンク?オーケー?」


お金持ちと一緒に飲んで、楽しもうということらしいが、マイルームって。美人局じゃないのか?せっかく一発逆転切り抜けたのに、ここで気を緩めてまたすってんてんになってたまるか。


「ノー、サンキュー」


断られた女性は腹立ちまぎれに、満タンのコインの入った下皿から一握り、数枚奪って去っていく。何人もの女性からコインを奪われても余りあるくらいコインは次々出てくる。スリーセブンでこの状況。これ、四枚賭けてたらどんだけ出たんだろう?いや、そんなことは考えないようにしよう。十分だ。日本に帰れる。ご飯も食べられる。


間一髪の危機をすり抜けた。でも、これ、一生分の運を使ったんじゃないだろうか。僕の人生、以降は運に頼らないようにしよう。そう思った。

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