火柱

思い立って、壱岐新春マラソンに、長崎からはるばる出場した帰り。


壱岐では大事なものがなくなったかと思ってびっくりしたり、マラソンというより、飲んでばっかりだったことはおいといて、もうひとつ、しなければいけないことがあった。それは、壱岐からフェリーで福岡に寄って、福岡でシャンプーを受け取ることだった。


髪の毛の状況がなんか気になり、少し上等なシャンプーを半年分買って、少しずつ受け取って使っていたのだが、シャンプーの会社が長崎から撤退したので、残りのシャンプーを福岡まで取りに行かないといけなかった(送れよと言いたかったが長崎の実家にシャンプーが届くのがなんかちょっと恥ずかしかったので)。


地図をたよりに、福岡をさまよい歩く。どうやらここらへんだ。あ、あった。分かりにくいところにあるな、もう。やれやれ。あとは、せっかく福岡に来たので、ラーメンでも食べて帰るか。マラソンの後も飲みすぎたから、なんか汁物が欲しいや、と思ったところだったと思う。


いきなり、ちょうど見ていた方向の三階建て(だったと思う)の建物から「ドカーン」という音がして、火柱が上がった。火柱は建物の上から、さらに十メートルぐらいあったと思う。驚いて唖然としていた。見物の人がわらわらと集まってき、すでに誰か消防に通報したようだった。


ビルの中から、東南アジアの人らしい女性が次々と泣き叫びながら出てきた。料理店だろうか。しかし、料理店にしては入り口が分かりにくい。マッサージのお店だろうか。しかしマッサージ店であんな火柱上がるか?


パニックになった日本人は生で見たことあるが、パニックは国でさまざまなのだろう。泣き叫び方、泣き叫ぶ人同士の寄り添い方は日本と違い、独特だった。外国の、災害の報道でこういうのを見たことあるかもしれない。


火柱はほどなく止まった。火柱だけで。建物が燃えているわけではないようだ。消防車も到着した。テレビのニュースでよく『一時騒然となった』という表現が使われるが、これか、こういうことかという一時騒然具合。この店、日本人の責任者とかいないのかな。留守だったのかな。女性たち、不安だろうな。


安全な場所に逃げのびた女性たちは、恐怖が相当なものだったのか、相変わらず、身を寄せ合って泣き叫んでる。


あっという間の出来事だった。 慌ただしく動いていた消防隊員が、落ち着いてきた。どうやら、物的損害だけで済んだようだ。事態が起きて、しばらくあっけにとられ何もできなかった。その後は、何か自分にできることはないかと思ってその場にいたが、あっという間に事態が収束してしまった。この一連の顛末がどういうことだったのかは分からないが、野次馬と思われたくないので、いそいそとその場を後にした。


長崎行きの高速バスの中、あ、シャンプーをもらうのを忘れた!

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