あゝ無情
生まれてこの方、息苦しい街だった。
辺りを見渡せば、現実に目を背け溜息を吐く大人。それを見た子供は夢を見ることすらやめて目が虚。
それもそのはず。
この街は巨大なガラスで覆われている。
そのガラスに人々が気づくことはない。
気づかない。というより、生まれた時からそれは存在し、当たり前の一部になっている。
街を覆う巨大で透明なガラスの壁。
街だけではない。国が。いや世界が。はたまたこの星が、宇宙がガラスの壁に覆われている。
その巨大なガラスの壁は、この世界を気まぐれで創造したモノよって作られた。
そのモノは、見方によっては、神と呼ばれ、また別の角度から見ると悪魔や、支配者、宇宙人、上位種、真理とも呼ばれた。
要するに我々を管理する一つ上の次元の存在だ。
彼は、何のためにこの世界を創造したのか?
それは我々の知りうることではない。
なにせ気まぐれで作ったのだ。
気が向いたから作った。ただそれだけのこと。
それ以上でも、それ以下でもない。
きっと彼はガラスの中に世界を創造しただけで我々の存在に気付いていない。
そう、我々は、言うなれば水槽を立ち上げたときに知らずに紛れ込んだバクテリアかミジンコ。
そして気まぐれで作ったのだ、壊す時も気まぐれだ。
彼は透明なガラスを持ち上げたかと思うとそれを地に落とした。
ガシャん。と、嫌な音が鳴る。
ガラスが割れて真っ黒な宇宙が液状にドロリと地に拡がった。
なぜ我々の世界を彼は壊したのだろうか?
最初から、今日、この日、この時間に、彼は我々の世界を壊すと決めていたのだろうか?
ガラスに覆われた世界は無数に存在する。
たまたま、運悪く、偶然に偶然が重なり、我々の入った世界を彼が手を滑らせ割った。のかも知れない。
はたまた我々の世界に飽きたから壊した。ただそれだけの、簡単な理由だったのかも知れない。
我々に彼の行動原理を知る術はない。
そもそも我々には彼が存在しているのかどうかすら証明することはできないのだから。
ただ一つだけ言えるのは、この瞬間、何百、何千、何万、何億と、続いた我々の世界は一瞬にして崩れ去った。
世界の崩壊と共に我々の存在もまた消える。
我々が存在し生きたことに意味はあったのか?
誰かを愛し、誰かを憎んだこと……
嬉しい、楽しいと思ったこと……
笑いあって、泣きあい、抱き合ったこと……
……我々が、悩み、悲しみ、苦しみ抜いた日々に一体どれ程の価値があったのだろうか?
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