リベンジ

 地球は謎の宇宙人に攻撃を受けていた。


 ある時から、様々な国で未確認飛行物体が目撃されていた。

 最初はオカルトが流行っている程度の認識だった。

 未確認飛行物体……通称UFOは、いわゆる円盤の形ではなく、円柱のような形をしていた。

UFOには幾つか種類があるとされるが、このUFOはこれまでのどの形にも当てはまらず、まるで臼が飛んでいる様で、人々は物珍しさに空を見上げてはUFOを探した。

 しかしそれが徐々に変わる。

 最初はただ空を飛んでいただけのUFOがいつの日か、ビルに向けてビームを照射した。

 ビルはガラガラと崩れ落ちていき、中にいた人、近場にいた人、多数の死者が出た。


 それは人類が生まれて初めて知的外生命体から攻撃を受けた瞬間だった。


 どの国も共通の敵が現れたと認識し、各国同士のいざこざは一度棚に上げ地球軍として宇宙人と立ち向かうこととなった。


「なんなんだ。あれは」

 X国の首相が声を荒げ言う。

「最初はZ国の自作自演かと思いましたがね。どうやら違うようだ。」

 Y国の大統領が嫌な笑みを浮かべ言う。

「Y国はこんな時に冗談が言えるなんて、神経がどうかしている」

 Z国の元首は、Y国大統領を睨みつけながら言った。


「今、我々が仲間割れをしては仕方ないでしょう。人類存亡の危機なのです。我々国のトップがしっかりしなければこの危機を乗り越えることなんて出来ません」

 A国のリーダーがY国とZ国を制した。


 今この時点でも、UFOは世界各地に現れ、ビームを照射し野原を焼き尽くし、街を破壊し続けていた。

 時には人間をUFOの中へと引きずり込むこともあった。引きずり込まれた者は、身体中を殴打されたのか、全身酷く腫れた状態で見つかる事が多く、運良く生存した者は「ハリが……ハリが……」と、上の空になりながら何かに怯え続けた。

 

 そんな中、人類は地球軍と称しあらゆる軍隊を合併し対応した。しかし、全勢力を上げてもUFOを追い返すのが精一杯だった。


「奴らの技術力の方が圧倒的に高く、我々人類では対応の仕様がない。有識者はなんと言っている?」

X国首相の問いかけに秘書官は、「はい。宇宙からやってきた知的外生命体……未確認飛行物体……としか……」と歯切れ悪く答えた。


「使えんな」


「奴らの目的はなんなんだ?」


「地球の侵略だろ。それ以外にあるか?」


「我々、弱者はただ蹂躙されるだけなのか……」

 Y国大統領は嘆きながら言った。


「ふっ、そんな言葉をY国大統領から聞くなんて傑作だ」Z国の元首はニタニタと笑いながら嫌みたらしく言った。


「また、そうやってあげ足を取るような発言は控えてください」A国のリーダーがまたも彼らを宥める様にして言った。


Y国とZ国のリーダーが互いに睨み合い空気が重くなっていた時、扉をノックする音がした。

「会談のところ、失礼致します」

 若い秘書官が息を切らして会議室へと入ってきた。


「どうした。なにがあった?」

A国のリーダーが聞く。


「はい。UFOの中から、謎の生物……宇宙人?……知的外生命体?なんと呼べばいいでしょう?」


「名称なんて、宇宙人でいい。早く要件を言え」

 Y国の首相は苛立ちながら秘書官を煽る。


「は、はい。UFOから宇宙人が出てきました。」


「なんだと。」

 各国のリーダー皆が驚いた。


 それもそうだ。

 これまで一方的にUFOからの攻撃が続いていた中で、新たな動きを向かえたのだ。


「それで、その宇宙人はどうしている?」


「現場も混乱しており、宇宙人の周囲を包囲し厳戒態勢を引いています。どうやら、宇宙人は敵意がないようで、貴方方とお話がしたいと……」


「敵意がない?これまで散々攻撃しておいて。どんな神経をしているんだ」

Y国のリーダーは、力一杯机を叩き言った。


「まぁ、ここは冷静に相手の言う通りにしましょう。宇宙人の機嫌が変わるといけない。君、宇宙人と会話ができるようにテレビ会議の用意を」


秘書官等による現場の迅速な対応の結果、宇宙人と各国リーダーは、モニター越しに対面する事となった。


モニターに宇宙人の姿が写し出される。


「ほぉ。面白い姿をしている。」


 宇宙人は堅い外骨格で覆われていた。

 生物としての規格が違う。

 それが宇宙人に対して向けられた感想だ。

 手は鋭利な刃物のようになっており、握手なんてしようものなら一瞬で切り裂かれてしまう。

 ジャンケンなら勝てるのではないか?なんて暢気なことを考えられるほど余裕を持った者はいなかった。

 鎧のような外骨格は、鉄のような質感で、きっと銃の類はどれも通じないだろうと予感させた。

 宇宙人の包囲を囲んで、銃口を向け牽制してはいるものの、そこにいる誰もがその行為はきっと意味を見出さないと理解し絶望の色が伺えた。

 その宇宙人を一言で表すと、昔見た特撮に出てきた宇宙忍者の様な見た目をしているだった。



「そろそろ頃合いかと思ってね」

 先に口を開いたのは宇宙人だった。


「そ、そろそろとは……?」

 A国首相が代表で聞いた。


「君たち人類が一つになる頃合いだよ。君たちは愚かだから同種同士で争いあっていたろ」


「君たちのおかげで我々は一つになれた。ありがとう」Y国の大統領は皮肉たっぷりに言った。


「それにしても、なぜこんなことを続けるんだ?君たちの目的は?我々人類同士の争いを止めることか?それともやはり地球の侵略か?」

 Y国大統領は、続け様に宇宙人に聞いた。


「侵略……的外れもいいところだ。我々がお前たちにすることは復讐だ」


「復讐?」


「そうだ。我々がお前たちにされたことは忘れない」


「な、待て……我々が君たちに危害を加えた?」

「一体いつ?」

「これだけの文明の差を見せつけられたんだ……何か勘違いじゃ……」


「ふっ、忘れたとは言わせないぞ。ヒントをやる。禁断の果実だ」


「禁断の果実?」


「林檎か?」


「違う。そんなものじゃない。我々とお前たちの祖先は禁断の果実を巡り約定を結び、そしてお前たちの祖先はそれを破った」


「約定?……破った?」


「そうだ。そして我々の祖先……大いなる母は、無惨にもお前たちの祖先に殺された。お前達の祖先は、あの日我々から禁断の果実と、大いなる母……全てを奪ったのだ。だから我々もお前達の全てを奪うと決め、我々は遠き星へと旅立ち、復讐する為の力をつけ、再びこの星に戻ってきたのだ」 



 各国のリーダーは、皆一様に首を傾げる。

「言いがかりじゃなかろうか?」

「それに何よりそんないつか分からん、昔のことを持ち上げられても……」

「それをY国がいいますか」

「だから今そういうのはいいから」

「えっと、その禁断の果実とは?それに、我々の祖先があなた方の祖先を殺したのですか?なんとも信じ難いと言いますか……」


 宇宙人は自分たちがされた事に対する怒りか、自分たちにした行いを忘れた事に対する人類への怒りか、はたまたその両方への怒りを滲ませ言った。

「この後に及んでもとぼけるか。白々しい。そんなに思い出せないなら、いいだろう教えてやる。お前達が、私達がと呼ばれていた時代ころの話だ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る