堕落
ひと昔前は、車が空を飛んだりしていたが、それも昔の話。
今では誰一人家から外に出る者は居ない。
完璧なインフラが整ったことで誰もが平等な生活を送れる時代になった。
高性能なAIやアンドロイドが世に台頭したばかりの頃は、仕事が奪われるなんて話があったが、実際には奪われたのではなく人間の代わりに置き換わっただけで、人間は空いた時間を自由に活用できるようになった。
完璧なインフラが整っているのだ、誰も仕事する必要がなく、たまに専用のアンドロイドが点検をすれば安定した生活が成り立っていた。
エネルギー問題に関しても問題ない。
そこも含めて完璧なインフラが整のっている。
そんな時代に、ある男はいつもの通りテレビ電話で友人と会話していた。
今日はこんな本を読んだだとか、古い映画を観たよなんて話しているのだ。
「今日は過去にアンドロイドを送り込んで未来を変えるって映画を観たな。」
「へー、それは面白そうだ。タイトルは?」
男の話に友人は興味を示す。
「あとでデータ送っておくよ。」
それより、お前はなにしてた?と男はデータを送る作業の傍ら話題を変えた。
「俺は、今日古い本を読んだな。」
「どうだった?」
「いや、俺たちと時代が違いすぎてよく分からなかったよ。」
友人はそう言って笑ってみせた。
そんなたわいも無い会話をしていると、男はふと、尿意を催した。
「トイレに行きたいんだけどさ、代わりに行ってきてくれない?」
男は冗談めかしく友人に言った。
すると友人も「代わりに行ってきてやるよ」と笑ってみせた。
互いにひとしきり笑い合うと男は席を立ちふらふらとトイレへと向かった。
彼が帰ってくるまで友人はロボットに水を持ってくるよう頼み、男の帰りを待つ。
男が帰ってくるのとロボットが水を届けるのはほぼ同時だった。
男は席に着き「スッキリしたよ」と笑う。
友人も水を飲んで「よかったな」と言った。
そして男はさっきの冗談の延長で「どうにかトイレに行かないで済む方法は無いかな?」と笑ってみせる。
「今の時代、部屋から一切出ずに生活が成り立つんだ。せめてもの人間の仕事は排泄くらいだろ」そう言って友人は水を口に含んだ。
「それもそうか。確かに、排泄しているときだけが生きてるって実感するよ」
「一昔前は汗水流して働いて、生き甲斐を感じてたなんて言うが、
そう言って痩せ細った、色白の二人はモニター越しに顔を合わせて笑いあった。
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