高校生の戯言

 ある日の夕暮れ時だった。

「なー?」正人は隣にいる智也に声を掛けた。智也は正人の問いかけに空を見ながら「どうしたー」と返事する。


「もしさ、無人島に1つだけ何か持って行けるとしたら何持ってく?」

「くだらない質問してんじゃねーよ。」

「いや、今やる事ねーじゃん。暇つぶしだよ暇つぶし。」


 確かに今現在2人がやることはなかった。高校生の2人は日がな一日こうしたどうでもいい話をファミレスなんかでしては、いつも時間を潰している。


「あー、スマホとか?」智也はスマホあればなんとかなるっしょ。と付け加えた。

「いや、そもそも無人島まで行く過程で濡れるから無理だな。」無理無理と、正人は笑った。

「はぁ?」智也は、そもそもの質問の前提条件が分からず困惑した声を上げる。


「だから、海で溺れてなんやかんやあって無人島に着くんだよ。」

「なんやかんやってなんだよ。俺はてっきり目が覚めたら無人島に居て、手元にアイテムが置かれるんだと思ったよ。」

「現実はそう、甘くない。」

「いや、海で溺れて無人島に着くのもなかなかに現実感ないだろう。」


「分かった、なら前提条件を擦り合わせよう。」正人の提案に智也は内心で「まだ続くのかこの話」と思いながらも、実際それ以外にやることがないのも事実だったため話に乗ることにした。


「まず、無人島へは目が覚めたら着いてたってことでいい。」

「OK」智也は頷いた。

「そして、水に濡れてダメになるのは持ってけない。」

「じゃあ、スマホやらPCなんかはダメなんだな?」

「そうだな、そもそもそういった機器は無人島じゃ、ネットに接続できないだろ。」

「確かに。」

「よし、こんなもんでいいだろう。朝起きたら無人島に居て、機械類以外が手元に一つだけある。その一つはなに?だ!」

「なに?だ!……って言われてもな…」智也はどう答えたものかと悩んだ。

「ちなみに正人だったら何持ってく?」

「あぁ、俺か、俺ならナイフだな。男ならナイフ一本でサバイバルしてやるよ。」

「カッコいいな。まぁ、確かにナイフあれば色々出来るかもな。」

「だろ、それに無人島には果物一杯なってるからナイフあればなんとかなるだろ。」


「え?」

「うん?」


「いやいやいや!聞いてないから!無人島に果物沢山なってるなんて聞いてないから!」

「……」

「いや、言ってなかった?みたいな顔しても駄目だから。」

「すまん、すまん。果物は沢山なってる。一応食べ物には困らないって島。」

「イチオウタベモノニハコマラナイッテシマ……なにそれ?だいぶ話変わってくるぞ、おい。よくそれでナイフ一本でサバイバルなんて言えたな。」


 正人はうるせぇ、と少し顔を赤くしながら「で?何持ってくんだよ?」と聞き返した。


「俺はTOKIOだな。」

「へ?」

 正人は狐につままれた様な顔をした。対照的に智也はしてやったりとした風だった。


「TOKIOってあのTOKIOか?」

「もちろんあのTOKIOだよ。」

 智也は当たり前だろ、と笑った。TOKIOはアイドルでありながら番組の企画でメンバー全員が農業に特化した技術を持っていた。中でもTOKIOのリーダーはプロも驚く技術と知識を有しているほどだ。


「流石に人はダメだろ。それはズルい。」

「いや、でも正人、お前は『朝起きたら無人島に居て、機械類以外が手元に一つだけある。その一つはなに?』って言ったよな?」

「言ったな。」

「だろ、機械類は駄目だがそれ以外ならいいって事だ。だから俺はTOKIOのメンバーを連れて行く。」

「でも手元にあるんだぞ?TOKIOは手元に居ないだろ。」

「……そこはあれだよ。手繋いでるんだよ。」それを聞いて正人はどこか腑に落ちないと言った顔をしたが「まぁ、いいか」と笑った。


「で?正人、この質問なんか意味あったの?」

「いや、特にねぇーよ。ただ無人島に流れ着いた俺たちだからこそ、得られる答えがあるんじゃないかと思って。」

「あー、確かにナイフくらいは持ってくるべきだったな。まさか乗ってた船が転覆してなんやかんやあって無人島に辿り着くなんて誰が想像するよ。スマホも海水で直ぐおじゃんになっちゃうし。」

「あぁ、ただ運が良いことに果物が沢山なってて助かった。」

「言えてる。後はTOKIOさえいてくれればな。」智也がそう言うと正人は笑った。


 一頻り笑った後、正人は言った。「でも、俺たちなんも持たずに無人島に流れ着いちまったけど、一緒に流れ着いたのがお前で良かった。」


 気づけば太陽は沈み、いつのまにか黒が空を支配している。所々に人工物では作り出すことの出来ない美しい光がちりばめられていた。


 空を見ていた智也は呟く。「あ、流れ星。」

「どこだよ?見えねーな。」正人には見えなかったらしい。


「何か願ったか?」

「まぁ。」

「なに願った?早く家に帰れますように?」

「いや、TOKIOが早く来てくれますように」


 暗闇の中に仲の良い2つの笑い声。

 それをかき消すように波がさざめく。

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