自由研究
ミーンミーンミンミーーン
ただでさえ暑い夏の日に蝉の鳴き声が拍車をかける。
夏真っ只中である。
それ故に世間は夏休みを謳歌していた。
少年もそうだった。少年とはこの物語の主人公。
めんどくさがり屋な彼。特別彼を呼称する名はない。彼には少年と呼ぶくらいが丁度よかった。
少年はリビングで氷菓子に齧り付いていた。
汗が頬を伝う。
夏休みに入り特別することもなく、日がな一日をぼーっと過ごしていた。
先に言ったが彼はめんどくさがり屋な性格だ。
学校から出る課題は毎年最後に回していた。
見かねた母は少年に尋ねる。
「あんた、毎年夏休みの最後に宿題やり出すんだから今年は少しずつ進めていったらどうなの?」
少年は母からの提案を邪険に扱い「うーん。分かってる」と適当に相槌を打った。
少年は特別成績が悪いわけではない。
むしろ彼は頭が良い方だった。
それ故に宿題を後回しにしてもどうにかなるという慢心があったのだ。
しかし、今年に限って母が五月蝿く言ってくる。
親心としては来年から中学校へ通うため、今のうちにしっかりしてもらいたいという考えがあったからだ。
少年は仕方なく一日最低でも一ページ課題に取り組むことした。
まずは自分の好きな国語を片付けた。
次に算数に取り組む。得意な国語に比べてモチベーションが下がるため、なかなかペースが上がらなかった。が、一日一ページを心がけたことで、ほどなくして課題を終えた。
コツコツ取り組んだおかげで、これまで夏休み最終日にまとめてやっていた課題は無くなった。
今年の夏休みは気兼ねなく遊ぶことができた。
友達と花火に行き、夏祭りにプールを楽しんだ。
休みも後半に差し掛かる。
いつものように少年はリビングでくつろぎながら氷菓子を食べていると、また母親から「宿題は終わったの?」と質問された。
少年は余裕の笑みを浮かべて「終わったに決まってるじゃん」と自信満々に答えた。
それを聞いて母親は「あら、そう。ならいいんだけど。」と相槌を打ってみせ、何かを思い出すように言った。
「そういえば、自由研究はどうしたのよ?」
少年は母の言葉を聞いて固まった。
少年が頬張っていた氷菓子が冷たいからではない。
すっかり忘れていた。
夏休みといえば、花火に祭りとプール。
そして……自由研究ではないか。
少年はカレンダーを見て確認する。
学校が始まるまで残り……1、2、3、4……。
まだ日は残されていた。
これから取り掛かれば充分間に合う。
それにしても、一体何を題材にしようか?
植物の観察は流石に今からでは遅すぎる。
蟻でも捕まえて巣を作る過程を観察してみるか?いや、これも遅すぎる。
工作をするにしても、材料を今から集めるとなると時間が掛かるし、少年のお小遣いは高が知れているため、あまり大した物を揃えることはできない。
少年の頭の中は混沌としていた。
もっと早くに自由研究の存在に気づいていれば……そもそもどうしてお母さんはもっと早く教えてくれなかったんだ。
あ、そういえば、自由研究のほかに読書感想文も残っているではないか。
考えれば考えるほど、不安の波が押し寄せ自分が今何をすればいいのか分からなくなっていった。
頬張っていた氷菓子が溶ける。
少年は目を瞑った。混沌とする思考を整理する。
休みが終わるまで、いくらか時間はある。
まだ、切羽詰まった状況ではない。
そうだ、去年の自由研究をそのままもう一度提出するというのはどうだろう?
ダメだ。
去年もギリギリになって悩んだ末、絵を描いたのだ。その絵が偶然にもコンクールの大賞に選ばれてしまった。そのためそれを使い回すことはできない。
そもそも少年の学年は今年に限って絵のコンクールがないため絵を自由研究として提出することは出来なかった。
瞼の裏に真っ黒な世界が見える。
混沌とする思考を振り払うように彼は言った。
「光あれ」
たちまちその場に光が現れた。
少年はその光を見てそれをよしとした。
少年は光と闇を分けそれぞれに名前をつけた。
光を昼と呼び闇を夜と呼んだ。
少年は何か足りないと思い、
天を作るとまだ何か足りないと思い、大地と海、植物を生えさせた。
少年の中でそれは満足のいく物となった。
が、なにを思ったのか辺りに装飾を施すことにした。少年はそれらを太陽と月、星と名付けた。
仕上げにと少年はいくつかの動物を創造した後、自分に似た生き物を創った。
それは歪であったが、なんとか夏休み最終日に創り上げることが間に合い少年は満足気だった。
それを作るのに要した日数は、6日だった。
7日目にはそれを学校へ提出し、以降少年がそれに触れることはなかった。
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