第一章 事の発端

事の発端は、進が念願だった志望校に入り、晴れやかな高校生デビューを果たした頃。もう既にその予兆が訪れていた。

進は、高校に入ったと同時に、部活には入らず、バイトばかりの毎日を送っていた。・・・というのも、進にはお金を稼ぎたい理由があった。

それが『バイク』だ。いつか、かっこいいバイクに跨り、世界を旅する夢を抱いていた。

だがその為には、やはり『お金(旅費)』が必要である。進はその夢をなるべく早く実現させるべく、青春よりもバイトの精を出していた。

彼はバイトができる高校を県内のみならず県外でも選び、加えて学校としてのレベルもそれ程悪くはない場所を厳選。

厳選した結果、県内で済んだが、受験は相当苦労していた。しかしその苦労の甲斐あって、第一志望の高校に入学。

両親は、息子である進熱意に負けて、渋々バイトを了承。

それからの進は、とにかくバイトに勤しんだ。

コンビニ・ガソリンスタンド・スーパー・本屋等、とにかく『高校生OK』の場所に、片っ端から面接を受け、毎日慌ただしい生活を送っていた。

いつか、世界中の美しい風景を見て、世界中の人々と交流して、世界がどれ程広いのかを、自分の目で確かめたい・・・

そんな夢があるからこそ、学校やバイトの毎日で疲れていても、夢を支えとして生きていた。


しかし、そんな彼の生活に、急に終わりが告げられる。

・・・というのも、進がバイト生活を始めたばかりの頃、進の住んでいる近所で、未成年の『万引き』や『窃盗』が相次ぎ、町全体が、子供に対して厳しい目を向けるようになってしまう。

もちろん、進は今までに一度もそんな非道に手を染めた事はない。

しかし、そう有事件が相次いだ事により、『二次災害』が発生する事態にまでなってしまう。

これも進には一切関係ないものの、学生がバイトをしている最中、「店の売り上げを着服している!」と、店内で大騒動になってしまう。

結果的に、その学生は着服なんてしておらず、別の店員による犯行であった事が後々明かされた。

だが、より一層、周囲の目が厳しくなってしまったのは言うまでもない。進も若干ではあるが、その被害を被ってしまったのである。

せっかく夢にまで見たバイトなのに、嫌な思いばかりが残ったバイト先もいくつかある。

しかし、それだけならまだ耐えられた。何故なら進の夢は、周囲ではケチがつけられない程、強く強固なものであったから。

問題になったのは、高校最初の夏休みがもうじき終わり、またこれから通学をしながらバイトをしよう・・・と意気込んでいた進。

しかし、進がそんな決意をした直後であった。

突然両親から呼び出され、何の用事なのか伺った。すると、両親から口に出された言葉に、進は驚きを隠せなかった。


「今日から必要以上の外出はしないように、バイトもすぐに辞めなさい。」


両親は、決して進を疑ってないんていない。だが、周囲の圧力に屈した結果、こうゆう手段を取るしか方法がなかったのである。

だが、それでは進が納得しない。何故今更、両親がそんな事を言い出したのか・・・は、進でもある程度予想できていた。

事実、彼の近所仲間達も、バイトを辞めさせられていたからである。

「いつか俺もそうなるのかも・・・」と思っていたのだが、その予想が現実になる事は想定していなかった。

進は、何だかんだ理由をつけて、バイトだけは続けさせてほしいと両親に懇願。

バイトをする為に高校選びも慎重にやったのに、せっかくバイト生活に慣れ始めていたのに、夢に向かう為の現実的な道ができたのに。

バイトを禁止されてしまったら、頑張って受験した意味が根本から崩れ、これから何の為に高校生活を歩めばいいのか分からない。

せっかく開かれた道が、あっさりと閉ざされてしまう。

しかし、両親の意思を曲げる事はできず。

挙げ句の果てに、「反対するなら今までのバイト料は全て没収する」という脅し文句を言われる始末。

進が半年、頑張って稼いだバイト代は、両親の方針により、一旦両親が作った口座に入れるのがルールになっている。

つまり、そのバイト代を手の上に乗せているのは、両親なのである。その両親に反対すれば、今までの苦労は水の泡になってしまう。

進は、渋々今まで勤めていたバイト先を辞め、学校と家を行き来するだけの生活を余儀なくされた。

一応彼の両親は、「何処かに行きたい時は、私達に一言言えば許可する」とは言ってくれたものの、稼いだお金を使うのを渋った進は、ただ家でじっとして過ごすしかなかった。


平日は

朝起きて 朝ごはんを食べて 学校へ行って 授業を受けて お弁当を食べて

また授業を受けて 下校して 夕ご飯を食べて 寝る


休日は

朝起きて 朝ごはんを食べて 昼ごはんを食べて 夕ご飯を食べて 寝る


そんな生活の毎日では、嫌気がさしてしまうのも当然。

進自身、熱中できるような趣味を持った事は殆ど無く、テレビがあるリビングに居座っていると「勉強しなさい」と親に退散させられる。

夏休みが終わってから七月辺りまでは、SNSで時間を潰していたのだが、それにもついに飽きてしまう。

それどころか、外出を禁止されている進にとって、外で思い切り楽しんでいる人、外で活動している人のSNSを見るのは、もはや今の進にとって『苦痛』と化してしまった。

夏休みが終わってからというもの、進はすっかり暗くなってしまい、彼の友人達は心配していた。

だから前よりも頻繁に、SNSでメッセージを送るようになったものの、それでも彼の心と時間を埋められない。

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