第44話 足止め2

「それにしても、随分早かったな。おかげで助かったよ」

「うん、お話ししてる時には飛んでたからね」

「あ、相澤お前、こんな昼間に飛んできたのか!?」


 俺の問いかけに相澤は「しまった」っと言う顔をして、その後すぐに笑って見せた。


「あっ……。えへー」


 笑っても誤魔化せないからな!?

 

 俺が呆れているのに気付いたのか、あたふたしてみせる。


「で、でも、すっごい高いところ飛んできたから大丈夫!! 多分……」

「助かったから文句は言わない。でも何かあっても、シロルに怒られるときは一人で怒られてくれよ?」


 ほっぺたを膨らませながら「ノアちゃんも一緒に怒られてよー」っと、俺を巻き込もうとする相澤。

 そんな彼女を放って、俺はゾーオを睨みつける。


「それにしてもあのゾーオ、敵意むき出しだな」

「うん、凄い大きなワンちゃんだね」

「頭が二つで、タテガミと尻尾が蛇な生き物は、ワンちゃんとはいわねぇな」


 オルトロスのようなゾーオは体を低くすると、俺達に向かい真っ直ぐと走ってきた。


「来る──アムールエクレール‼」


 手を敵に向け構え、突っ込んできたゾーオに俺は初めて自分の攻撃魔法を放つ。

 一筋の閃光は真っ直ぐとゾーオにあたり、光は何本の光線となり拡散する。

 

 当たったゾーオは、何事もなかったかの様に走りを止めない。


「あーくそ、俺だとこの程度なのかよ!」

「ノアちゃん来るよ!!」


 俺と相澤は左右に散開して、ゾーオの体当たりを闘牛の様に回避する。

 ゾーオは周囲の人工物を薙ぎ倒しながらも、ユーターンして再びこちらに向かってきた。


「相澤、俺を抱えて飛んでくれ!」


 合流すると、相澤は俺を抱えたまま空を飛んだ。

 ゾーオも空を駆ける様に、俺達を追ってくる。

 俺は、相澤の肩越しに顔を覗かせ、後方のゾーオに向けて手を構えた──。


「アムールエクレール! アムールエクレール!」


 一発で駄目なら何度でも!!


 シロルが以前に言っていたように、倒せる気がしない。それどころか、


「痛くも痒くもないってか? そもそも痛覚があるか知らんけど……」


 力が足りないのは重々理解していた。

 それでも足止めすら出来ないなんて、歯痒いなんてもんじゃない。


「相澤、攻撃が来る。上昇しろ!」

「分かったよ」


 指示に従い、相澤は空に向かい急上昇する。

 ゾーオも俺達を追うように、後をぴったりついて来た。

 そして俺たちに向け、液体を吐き出してくる。


「相澤、右に回避! くそ、このまま手をこまねいてるだけじゃ、いつか追いつかれるかもしれない。なにか術は……」


 俺は考えを巡らせ、周囲を見渡す。


 灯りのない町、国道に置き去りになってる車。

 俺達以外に音を出す生き物が居ない、静寂の世界。

 逆に言えば、多少の無茶なら許される、今に始まったことじゃないけど。


「もうヤケだ! 相澤、高度を上げながら真っ直ぐ前進してくれ、考えがある」

「うん、分かった!」


 真っ直ぐ飛び、ゾーオとの距離が少しずつ詰まっていく。

 しかしそれも、作戦のうち──。


「──ここで真下に急降下!」


 急激な落下に腹部に圧迫感を感じる。

 ゾーオも同じようについてきて、打ち下ろされるように飛ばしてくる液体を、俺は魔法で追撃した。

 その間にも、落下速度はドンドンと上がって行く。


「ノ、ノアちゃん、このままだと地面にぶつかっちゃうよ!?」

「だめだ、ギリギリまで粘ってくれ!!」


 俺達は速度を落とすことなく、地面に向けて真っ逆さまに落ちていく。


「今だ相澤!!」


 俺の合図で、相澤は体を起こすように方向転換した。

 地面にぶつかる寸前、腹部や胸部を更に強い圧迫感が襲い、視界が白と黒に移る。

 しかしなんとか、俺達は車と車の隙間を縫うように切り抜けた。


 そしてゾーオは、その巨体で止まることは出来ず、止まっている車、その中でもより大きいタンクローリーに向かい突っ込む。


「俺が力不足でもな、これならどうだ」


 ゾーオの周囲には、破壊したタンクローリーの破片と、大量に漏れ出すガソリンが巨大な水溜りを作っていた。

 そしてガソリンに塗れているゾーオに向け、俺は手を掲げた。


「くらえ、アムールエクレール!!」


 俺の手のひらから、閃光が迸る。

 そして閃光は、ゾーオに辺り火花を散らす。


「相澤、全力で退避! 衝撃が来る──」


 爆発と共に、帰化したガソリンは火柱を上げた。

 その後空気を押しのけるように、ゾーオが居た場所を中心に炎渦が広がる。


「きゃぁぁ!?」


 俺達は衝撃で飛ばされ、なんとか空中で体制を立て直す。

 そして振り返ると──。


「凄い……」


 先程の場所を中心に、車も、ガードレールも、近くの物と言う物は吹き飛んでいた。

 立ち上る炎は、まるで鎮火することを知らないかのようにゾーオの体を焼き、燃え続けている。


「これなら流石に……」


 俺達は、目の前の惨状を見て気を抜いた。

 ……その時だった。


「──えっ?」


 突然二つある頭の一つが千切れ、俺達に向かい飛んできたのだ。

 完全に油断していたため、相澤は反応しきれずにいる。


「相澤!?」


 いち早く動けた俺は、相澤と飛んできたゾーオの頭の間に、割って入るように両手を広げ立ち塞がる。

 その程度の事しか出来なかった……。

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