5. 壊滅的にパーティ需要のないアサシンたちと組んだのはリビングデッド
おだやかな大草原の中。
陥没したカルデラの中にそびえたつローグダンジョンの
塔を囲む、万単位のプレイヤーの群れ。
そして空から降ってくる大量の隕石。
隕石ッ! 燃えさかる隕石ッ!
「こんなクソバランスにした運営を殺せッ!」
「さっさとローグダンジョンのサーバを増強しろッ!!」
「倒産しろッ!!!」
「ユリーッ!!!! 結婚してくれーッ!!!!」
最後のは何なんだ。
相変わらず地獄のような混雑っぷりの中、俺たちがローグダンジョンの1階で餓死している間にデモ隊はさらなる進化を遂げていた。
意味不明な「運営絶対ぶっ殺す隊」とかいうギルドを結成した暴徒たちは、大量の魔法使いによる共同魔法でも使ってるのか見たこともない巨大な隕石を次々とローグダンジョンの塔にぶち込んでいた。そしてそれをさらに上回る全く意味の分からない恐竜たち。大量に降り注ぐ隕石を防ぐかのように沸きまくり、燃えさかる隕石を咥えては暴徒にぶん投げ強制的に鎮圧していく。さながら完全にレイドボス戦でも始まったのかと言わんばかりのジュラシック☆バトルが繰り広げられていた。
しかし。
そんな地獄のような混沌と暴力の中。
再度俺たちは、ローグダンジョンの入場待ち列に何事もなかったかのように並んでいた。
なぜならこのゲームの民度の低さはマントルを突き抜けてブラジルすら貫通するレベルだということをとっくに存じ上げておりますので。
「ちょっと一回、ちゃんと情報を整理する必要があると思う」
となりで何かが爆発する音が聞こえたが、俺たちは無視して会話をつづけた。
「オークは、食料ではない(小声)」
「そうではなくて」
人っぽいのを食うなッ!
「アサシンだけってのがそもそも無理なんですよ」
しょーたろーが投げやりな口調で文句を言い始めた。そもそも論過ぎない?
「どうせこのままいっても次も似たような結果になると思います」
まあそうなんですけど~。
「でも俺らアサシン以外の知り合いって——」
ふと、急に周りが暗くなった。
会話していた俺たち全員、あたり一帯の並んでいたプレイヤー含めて、まるごと何かの陰に入った。
なんだ? 雲か?
全員が上空を見た。
陰を作ったかたまり。
太陽を覆いつくすかのような巨大な、空からせまりくる灼熱の——
「ハハッ(小声)」
隕石ッ!
「民度が低すぎるッ!!」
流れ弾ってのは聞いたことがあっても流れ隕石なんてありえるかッ! っていうかそれ単純に流れ星なんじゃない? ロマンチック~。
とかをコンマ1秒で考えてる間、俺は死を覚悟した。無理ッ! なんか暗くなったな~とか思ってたらむしろ劫火のような隕石が煌々と俺の顔面を照り付けて焼いてくる。轟音まで鳴り響き始めてすごい。お星さまにお星さまにされる感覚って初めて。
とかをさらにコンマ2秒で考えてた俺の目の前で、確実なる死を俺にお届けする予定の巨大隕石はなぜか空中で——
「オラァッ!!!!☆」
爆散した。
降り注ぐ巨大な破片(焼かれて死ぬプレイヤーも出ました)とともに、何かが俺たちの近くにクレーターを作りながら着地(?)した。
「ふぅ~☆」
陥没した大地。
立ち込める土ぼこりの中から、ゆっくりとピンク色の髪をした小柄な何かが姿を現しはじめた。
「ハルさん……」
「やっほ~☆」
知ってた。
人口密集地帯を丸ごとクレーターにした人間弾道ミサイルが、いつものクリスマス前のお菓子の詰め合わせにでも入ってそうな謎のステッキを回転させてポーズを決めた。
「みんな元気~?☆」
「死人が出とりますがな……」
「どうせ死ぬ予定だったんだから気にすんなよ☆」
サイコパッスゥ~。トロッコ問題とか出たら即答でデブを谷底に突き落としそうだなこいつ。
とか思っていたら、ポーズを決めていた純粋なる暴力の化身がいつになくモジモジとソワソワしはじめた。
「今日はちょっと、皆様に折り入ってご相談が——☆」
え? 何? とうとう気でも狂ったか?
というかこいつはどうやって俺たちのところへ来たんだ? なぜ空を飛んで隕石をぶち抜いてここへ?
疑問しかない俺の前、柄にもなくはにかんだように照れているハルが、よいしょ、と自分の背後から死体を取り出し俺たちの前に突き出してきた。
死体。
死体ッ!
さっきの衝撃で死んでるッ!
初期装備の戦士♀が、半透明の「DEAD」表示になったままハルに前へ突き出されたかと思うと、白目をむいたまま腰から力なく折れるように崩れ落ちた。
「こいつを連れて、一緒にローグダンジョンにいってもらいたいんだよ~☆」
恐怖! ピンク色の悪魔は仲間(死体)を呼んだ!
巨大な
その周囲。
飛び交う巨大隕石と、その間を縫うように飛び交うプテラノドンの末期的黙示録を背景にしながら、俺たちはよく訓練された家畜のように順番待ちをしていた。
「つまりドのつく初心者を連れてローグダンジョンを駆け抜けたい、と」
俺の確認するような言葉に、満面の笑みでうなずいたハルが「戦士♀(死体)」の肩を掴んで突き出した。
「こいつも一緒にクリアさせてほしいんだよ~☆」
死んでるがな。
俺は無言のまま、しょーたろーを見てうなずいた。
察してくれたのか、しょーたろーがバカでかいバックパックから蘇生薬を取り出して白目をむいて半透明になったままの戦士♀になみなみと、それはもうなみなみとカパッと開いたままの口へあふれるくらいに一気に流し込んだ。
ごっくん。
「死ぬわ!」
生き返った~。
「なんなのこのゲーム! 死ぬわ!」
死んでたね。
「ちょっと~☆」
笑顔のままのハルが、生き返ったばかりの戦士♀の顔に自身の顔を近づけたかと思うと——
「あいさつは基本中の基本だろ……☆」
怖いわ。なんだお前らの関係は。
軽く咳ばらいをした戦士♀が、俺たちを振り返り若干頭の弱そうな表情と謎の作ったようなモーションをとったかと思うと——
「こんにちは
きゅる~ん☆
……。
…………。
沈黙が、流れた。
遠くで、隕石が落ちた。
プテラノドンの咆哮もプレイヤーの叫び声も聞こえるが、無視した。
なんなのかな? こいつらはなんかポーズでもとらないと宗教上の理由で処されるのかな?
「ということでこいつも入れてほしいんだよ~☆」
無言のまま、俺は後ろにいたモブ子としょーたろーを振り返った。
「どういうことなんだ……?」
「全く分からん(小声)」
お前ですらわからない理不尽が存在するのか。
「だが、何か戦士が加入するんだろう? だったらパーティがバランスよくなるのは喜ばしいんではないか?(小声)」
「そう思いますか……?」
ぽつりと。冷え切った目で二人を見ていたしょーたろーから、明らかに不審げな声が出てきた。
どっから取り出したのか意味不明なメガネをつけたかと思うと、突然俺たちの目の前に謎のホワイトボードが出現した。なぜ? どういう仕組み?
「いいですか? ローグダンジョンを攻略したいって言ってますけど——」
やはりどこから取り出したのか全く分からない指示棒を引き伸ばしながら、しょーたろーがハルと戦士♀を見て目をくわっ! と見開いた。
「さっき僕たちも死んだばっかりなんですよ!」
自信満々に何を言いだすのだこいつは。
だがしょーたろーは振り向きもせず、なんかすごい勢いでホワイトボードに食らいついたままみっちりと文字を書きなぐりはじめた。キモイ~。
「いいですか! このローグダンジョンはLVもスキルも装備品すらも全部最初からにリセットされるからってLV1の初心者が入ってなんとかなるような設計になってないんです! 甘く見てたら死にます!」
指示棒でバシィッ!
すげえ一気にしゃべったなこいつ。
「そこはほら——☆」
明らかに引いてる気配の中、ハルがなんとか食らいつくように笑顔を作って声を出した。
「お前らならなんだかんだ言ってサポートしてくれるんじゃないかな~って思って~☆」
「ほう(小声)」
なぜ?
僕たちのあいだにそんな信用があるとでも思って?
「だってほら——」
ハルがまた柄にもなく微妙に照れたように笑ったあと、ピンク色の髪の毛をいじりながら小さくはにかんだ。
「どうせまたアサシンしかいないだろうから、受け入れるしかないってのわかりきってるし……☆」
殺すぞ。
当たってるからより一層反論すら許されない。ひどい。
「まあ、とりあえず行ってみるだけ行ってみたらいいんではないか(小声)」
めずらしくまともな意見がモブ子から飛び出た。
「いうて、ハハッ(小声)」
モブ子が手を叩きながら笑い始めた。
「拙者たちからゲームの知識を抜いたらもう、何も残りませんので(小声)」
無、ですかね。
俺は表情が「無」となったまま、並ぶ列の人数を3人から5人に切り替えた。
だが俺は気が付いていなかった。
このド素人を連れてきたハルが、このUNKOのバックグラウンドでとんでもないことをやっていることを俺は知りもしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます