2. 総額100万ドルの賞金が繰り広げられる年末ジャンボローグダンジョン


【 新しく実装されたローグダンジョンを速攻でクリアすれば100万ドル! 】



 運営が残した地獄のようなPRワードは、UNKO中どころか一般媒体を通じて全世界に拡散されていった。


 正確には、1億円強の分配。ローグダンジョンをクリアした先着1位から100位までに分配される。らしい。


 一応あいつら、あのクソPR動画でもちゃんとそう説明してたはずなんだが、そういった重要事項説明みたいなもんは大体まあ都合よくかっ飛ばされて、【 1億円 】とか【 ワンミリオンダラー 】とか、とにかくそういうキャッチーで脳汁飛び出すゲロヤバイワードが独り歩きしてしまった。

 それはもう現時点でログインしてるボス狩り連中にも、最近このゲーム始めました~っていうような初心者にも、トイレでスマホいじりながらUNKOじゃない本物のほうに現在進行形で取り組んでいる全然関係ない一般人にすらも届く一大イベントになってしまっていた。



 年末、もうあと一日でニューイヤーを迎えるかっていうこの時期に、除夜の鐘に真正面からけんか売ってくみたいなとんでもない煩悩を残して消えた運営のPRは、今年最大にして最後のイベントの幕を開けようとしていた。







 青空を流れる白い雲~。

 一面に広がるのどかな大草原~。


 人ごみッ! ゴミッ!


 カラーリングが自由なせいでクッソ色とりどりになったプレイヤー集団の髪の毛が死ぬほどサイケデリックッ! 草間彌生もドン引きッ!


「そりゃこうなりますよね……」


 クソでかいバックパックを背負ったしょーたろーが、眼下に広がる地獄のような人ごみを見ながら俺のとなりで小さく声を上げた。


 背の低い草が風に揺られるのどかな牧草地帯。

 その奥、カルデラのようにゆるやかに陥没していく大地。


 その開ききった穴の中で、漏斗を逆にしたような、そう「まるで絵にかいたようなソフトクリームまきグソ」のような10階建ての塔が、バカでかい規模ですそ野を広げそびえたっていた。


 そのくぼんだ大地を中心に、そびえたつ巨大な巻きグソにたかるかのように集まる人。人。人。


 すごい~。気持ち悪い~。

 集合体恐怖症が見たら卒倒しそうな光景になってる~。

 野外フェスでもやってんのかってくらい人がいんぞ。10万人くらいはいんじゃねえのか?


「年末だってのによくまあこんだけ集まるもんだな……」

「なんか今、ログイン制限されてるらしいですよ」

「え?」


 ログイン制限。久しく聞いてないワードが出てきた。


「しかもローグダンジョン、入るプレイヤーが多すぎてダンジョンにまで制限かかってるらしいです」

「ダンジョンに入場制限ってあるんだ……」


 俺は眼下にそびえたつソフトクリームクソを見た。


 遠すぎて米粒くらいにしか見えない、カラフルなチョコスプレーみたいなプレイヤーたち(もしくは未消化なコーン。お好きなほうをご想像ください)が、強引にソフトクリームの外壁をよじ登っている。さながら蜘蛛の糸のカンダタのような世界になっていた。


「あいつら何やってんだ……」

「物理的にクリアするつもりなんですかね……」


 入場制限に業を煮やしたのか、一部の暴徒のようなプレイヤーたちが塔の外側から強引に塔をよじ登っていた。自由すぎない? 海外勢かな?


「あ」


 しょーたろーが小さく声を上げた。


 雲がたなびく青空から、どっから現れたの? っていうようななんかよくわからん強烈なプテラノドンみたいなのが、強烈な鳴き声を飛ばしながらヤバイカラスの群体のように死ぬほど大量に飛んできた。


「ちょっ——!」


 かと思うと、突如現れたプテラノドンたちは地獄のような鳴き声を上げながら強引に塔を上っていた強☆引ngマイウェイなプレイヤーめがけて突っ込んでいった。

 

「GYAAAAAAA!!!!」


 プレイヤーの叫びともプテラノドンの鳴き声とも取れないもうなんか阿鼻叫喚みたいな叫び声が響いたかと思うと、そのまま餌でもついばむかのようにプレイヤーを食い散らかした大量のプテラノドンたちは何事もなかったかのように空の彼方に飛び去って行った。 


「……」

「……」


 なんか「贄」みたいな大惨事が終わったころには、ソフトクリームをよじ登るカラースプレーたちはきれいに一掃されて消えていた。


 なんだこれ……! 完全にバベルの塔になっとる……!!


 なんだあの怪鳥どもは。どういう理屈であんなのが出てきていきなりプレイヤーを皆殺しにしていくんだ。どう考えても高レベルプレイヤーだって混じってただろ意味わからんわ。運営は絶対正規ルートでしかクリアさせないつもりか。


「年末だってのになんで俺こんなイベント参加しようってしてんだろうな……」

「金です」


 即答~。

 その通りなんですけども~。








 俺たちは、地獄の待ち行列に並んでいた。


 そう、それはただのローグダンジョンへ入るためだけの人数制限による待ち行列。

 俺たちが最初に立っていた塔を眼下に見つめる大地の上から、ゆっくりと降りていった先の塔の周りには、コミケの入場制限のようなクソ長い行列が出来上がっていた。


 ちゃんと並ぶのって民度高いよね~。あの地獄みたいなプテラノドンのせいだとは思うけど~。


 やはり暴力……! 暴力はすべての秩序を回復させる……!


「PTの人数によって列が違いまーす!」


 人ごみの奥、なんかよくわからんけど誰かが声を張り上げている。


「ソロから10人までのPT人数ごとに列を守ってください~!」


 女プレイヤーっぽい誘導の声に従って先を見ると、空間に浮かんだクソでかいパネルのようなものに「ソロ」「5人」とか殴り書きのような文字が表示されている。


「PT人数ってなんか関係してんのかな」

「処理の関係らしいぞ(小声)」


 突然、後ろから声がした。


 なんとなく、予想がついていた。


 高身長で、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できないあたまのおかしいセンスをしたアサシンが立っていた。


「お前……」

「やっほ~(小声)」


 隣にいたしょーたろーが、ゆっくりと、大きくのけぞるように上体をそらしたあと——


 上体もろともフルスイングでモブ子の顔面にめがけてつばを吐き出した。


「死ねや!!」

「ちょっとひどくないですか(小声)」


 どっから取り出したのかわからないハンカチで拭きながら、モブ子が弁解するように説明をはじめた。


「まあちょっと話を聞いてほしい。悪い話じゃないから(小声)」

「は?(怒)」


 しょーたろーがものすごい目の開き方でモブ子にメンチ切ってる。


「ローグダンジョン、仕様で上限が決まっているらしくてな(小声)」

「上限?」

「ほら、ローグダンジョンって毎回入るごとに中身が違う個別ダンジョンの仕組みになってるだろう? そうすると、参加人数が多いほど生成するダンジョンも多くなってて、その処理が追い付いてないらしいのだ。

 ほら、あのあたり——(小声)」


 モブ子が「10人」とかかれたクソでかいパネルのところを指さした。

 10人組の団体様ご一行が、満面の笑みのままファストパスみたいな感じでダンジョンの入り口のほうに吸い込まれていくのが見えた。


「1人で入っても10人で入っても1ダンジョン。なら大人数PTを優先して先に入れようという仕組みになっているらしいのだ(小声)」

「いやまあそうなんだろうけど」


 俺の言葉の途中、しょーたろー再度強烈にのけぞった。


 拭き終わったばかりのモブ子の顔面に、再度投擲とうてきスキルでそんなもんがあるかのようにつばを吐きかけた。


「死ねや!!」


 こういう攻撃をくり返すモンスターなのかな?


「ほらもう~。この子『死ねや!』しか言わなくなってるでしょう。お前も早く巣におかえり」

「ええ~。人数多いほうが早く入れるからそっちのPTに入れてくれたっていいじゃん~(小声)」


 しょーたろーがフーフー威嚇する声を上げる中、モブ子が再度顔面を拭きながら無駄にくねらせるように小躍りして弁明している。イラつく~☆


「まあ、僕はかまいませんけど」


 しょーたろーが口を開いた。


「PT人数が増えたほうがいいのはわかるんで。このマジクソ忍者と一緒にいっても僕は別にかまわないです」

「英断おめでとう。ありがとう。デリシャス(小声)」


 モブ子が笑顔で小さく拍手を始めた。デリシャスってなんだよ舐めたんかお前は。


「あ」


 モブ子が小さく声を上げた。


「PT申請できない(小声)」


 俺は無言でブロックを解除した。

 モブ子の頭に青白い「!」マークがついた瞬間、再度しょーたろーが振り向きざまにつばを吐き飛ばしたのを見たが俺は無視した。

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