2. 絆のVRMMOがお送りする新しいコンテンツそれは🅲🅰🆂🆂🅸🅽🅾

「はい! それでは今回はね、新しくUNKOUnknown Onlineに実装された【カジノ】! これを見にいってみたいと思います~(笑)」


 イェ~ィ。ワァ~(謎の効果音)


 なんだこれ。

 なんか勝手に動画が始まったんだが。


 とりあえずこの動画の撮影者(?)の声が不快~。


 そんな俺の感想をぶっちぎって、動画は主を映すこともなく主視点のまま続いた。


「こーれがカジノなんですね! 海外の四つ星ホテルみたいな建物ですね~。何階までカジノなのかわからないんですがとりあえず入ってみましょう!」


 砂漠マップのど真ん中に一本だけそびえたつ謎の近代的な高層ビル。こんなんVRMMOじゃないと許されない所業。

 エントランスに画面が吸い込まれるように入っていった。


 クッソでかいシャンデリア。

 ドアマンのようなNPCが複数人いるロビーを抜けると、赤じゅうたんがゴリゴリに敷き詰められた、見た瞬間にわかる高級感あふれるフロアが広がっていた。


「結構な広さですね~。何階までカジノかわからないんですが、三階以上は基本一般の方には解放されていないVIPラウンジだそうです。皆さんには無縁なエリアですね~(笑)」


 なんだこいつ……!


 動画の主がどんどん奥へ突き進んでいく。

 スロット台が大量に並んでいる薄暗いエリアで、また不快な主の声が入った。


「やはりカジノといったらスロット! 奥にあるルーレット卓もいくつも並んでてゴージャスですね~。これは私が以前いったリアルな高級カジノよりもいい造りかもしれませんね~(笑)」


 ちょこちょこイラつく~。絶対こいつのチャンネル登録者数低い気がするわ。


 スロットゾーンを抜け、ビリヤード台のようなテーブルにディーラーが配置されているスペースで動画が止まった。


「テキサスホールデム(ポーカー)の卓がありますね! 今プレイしている方もいるようなので、早速見に行ってみましょう!」


 ああ、なるほど。

 俺は理解した。


 4人ほどプレイヤーが座っている中、明らかに見たことのある黒づくめの怪しいプレイヤーがテーブルに座っていた。


 モブ子だ。


「あれは……忍者なんですかね……。ドレスコードに引っかからなくて済むのがVRMMOカジノのいいところですね! ちなみに僕は海外のカジノにハーパンとクロックスでいったら叩き出されたのですが、ガードマンにチップを払うと靴を貸してくれる抜け道でやったことがあります(笑)」


 知らねえ~。そんな知識いらねえ~。さっさとこんな動画スキップしろ~。


「いくらくらいベットしてるんですかね。えっと……」


 ひっ。


 小さく、動画から主の叫び声が上がった。


 テーブル、モブ子の座る卓のチップに「腎臓」という文字が書いてあった。



 *



「なんなんだおい! 説明しろ!」


 灰色のコンクリに芋虫のように這いつくばるモブ子。

 目の前にだら~んと広がるクソを容赦なくつかんで、俺はもうポニーテールがぶるんぶるんになるほど頭をぶん回しながら叫んだ。


「お前の身代わりってなんなんだ! 何で俺がこんなところに呼ばれてんだよ!!」

「もう……一人だけで背負えるギルティじゃなくなっちゃった……(小声)」


 モブ子がかすかに笑いながらため息をつくように言葉を漏らしやがった。


「誰かと一緒に歩いて行かないとこの先生きのこれない……(小声)」

「意味が分からん!」


 病めるときも健やかなるときも一緒みたいなフレーズ言われても困る。


「ヒロさんも呼ばれちゃったんですね……」


 モブ子の顔面に鉄拳を連打する(が、AGIすばやさ極のモブ子の顔面はあらぬ方向に曲がりくねって俺のこぶしを避けています)俺の後方から、知ってる声がした。

 振り返ると、クソでかいバックパックを背負った少年が沈痛な心持ちで俺たちを見ていた。


「しょーたろーか……」

「僕も呼ばれました。同じ理由で」

「みんな呼んじゃった(小声)」


 ということは……。


「やっほ~☆」


 場違いすぎる間の抜けた声とともに、ピンク色の悪魔が灰色のコンクリ床をローリングしながら突っ込んできた。


「ハルだよ☆」


 どういう仕組みか全くわからないが、コンクリ床のほうが削れておきながら何一つ傷もなくハルが俺たちの目の前でポーズを決めた。


 知らねえよ。なんだよそのポーズは。


「なに? これなんのイベント?☆」

「よく開催者もお前を拘束できたな」

「VRMMOなんだしアトラクションだと思って適当についてきただけだよ☆」


 能天気すぎる~。

 キャラデリするッ! ってさっきなんか叫んでたやついたでしょう。


「ルールの説明を始める」


 突然、ドームの中に反響するような声が響いた。


 一斉に、全員の視線がドームの中央、赤い玉座に座るザ・中二病ゴスロリ少女に向けられた。


「お前たちが呼ばれた理由は個別に異なる。だが大まかにわけて二つだ。一つは悪質プレイのしすぎで通報されまくって運営から最後のチャンスを渡されたもの。もう一つはそいつの連帯保証人。

 私はその取り立てを担当するイーモゥだ」


 場にいた10人に満たないプレイヤーたちから小さな声が上がった。


「キャラデリって何なんだ!」


 少女の対角線上、奥のほうから声がした。

 遠く、金髪のマッシュルームカットをした男が声を上げていた。


「俺は別に何もしてないぞ! なんで俺がキャラデリなんて目に合わないといけないんだよ!」

「そうだ!」


 また声がした。

 別の方向から、真っ黒な黒装束に身を包んだ謎の——


「拙者は! ただこのUNKOで仕様上できるギリッギリのキワを攻め続けただけだッ!」


 拙者~。


 もうなんか説明する必要もないほどNINJAだった。前回新しく実装された新エリアでギルドウォーを申し込んできたあのアレ。最後に俺を拉致って強引にギルドウォーに参加させてきたアレ。


 こいつは絶対前者の悪質プレイのほうでここに連れてこられてる。間違いない。異論は認めない。


「説明の途中で口をはさむな」


 空気を破裂させるような音がドームに響いた。


 玉座に座った少女が、どこから取り出したのか強烈な鞭を手に握っていた。

 太い強烈な鞭が、コンクリの床に叩きつけられていた。波打つ鞭がコンクリの床を削りとったかと思うと、少女の手にまるで生きているかのように踊りながら戻っていった。


「これ以上進行を妨害するなら今すぐキャラデリする。その権限が私にはある」


 一瞬で、怒号が飛び交っていた場が静まり返った。


「では、説明を始める」


 突然、玉座の真上の空間に、半透明のウインドウが円筒状に開かれた。


 クソみたいなでかい文字が、表示されていた。


「アサシン……ゲーム……?」

「この場にいるプレイヤーは全部で9人。お前たちにはこれから【アサシンゲーム】をやってもらう」


 画面が、次のものに切り替わった。


「なんだこれ~☆」


 ハルが場違いにげらげら笑いだし始めた。


 画面に、なんか妙にかわいらしい笑顔をした、2頭身のキャラが3体表示されていた。


「お前たちには全員に【商人】【傭兵】、そして【アサシン】のカードが無限に配られている。行商に出る商人を傭兵で守り、アサシンからの襲撃を防ぐ。無事行商が終われば商人はゴールドを稼いで帰ってくる。単純なゲームだ」


 突然、場を見上げていた俺の目の前に、小さなウインドウが表示された。


 玉座の上にある大きな画面。それと似たような画面の中に、【100G】という謎の数字とともに同じように3体のキャラが表示されている。


「お前たち9人が力を合わせれば、誰一人犠牲者も出ることもなく全員そろって無事に帰れるだろう。だが——」


 玉座に座る少女が、笑った。


 確信に満ちた笑いだった。

 これから起きるであろうことを確実に予測している。そんな下卑た笑い。


「悪質プレイヤーであるお前たちには、それ以上のものを期待しているよ」

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