Season 3. 地獄のクソ囚人ゲーム編

1. アサシンは激怒した。アサシンにはこの状況が全然わからぬ~

 俺は、何をされているのか。


 視界、すべてが闇。

 目の前が真っ暗で何も見えない。


 正確には、目を開けることができない。

 別に閉じていたいわけでもなんでもない。ただ何か、布のようなものが俺の顔面をきつく縛っていて物理的に目が開けられない。


 一切の音もない。

 体と腕の感覚で、何か椅子のようなものに縛られていることだけはわかる。それ以外はなにもわからない。何の音も、光も。空気の流れも何もかも、ただ俺の体を縛るこの窮屈で身動きが取れない恐怖と言い知れない不快感だけしかない。


 なんだ? これ。

 VRMMOにログインして遊んでいたはずなのに、どうしてこうなってる? バグか?


 とりあえず俺はこれ以上ポエムを続けるはめになるのか?


「おい!」


 おい! おい、おぃ、ぉぃ。


 俺の声がゆっくりと反響しながら消えていった。


 なんだここ。クソでかい空間なのか? 真っ暗すぎて何もわからん。


 マジでなんなんだ?

 俺は一体何がどうなってこんなことになってる?


 突然、ブザーのような機械音が鳴った。

 何かが巻き上がるようなギアの音。太い金属チェーンのようなものがじゃらじゃらと音をたて引き上げられていく。


 そんな音だけが俺の耳に強く届く中、一瞬で体が上昇する感覚に襲われた。


 もうログアウトします~。

 そう思った矢先、俺を縛り付ける椅子の上昇が強い振動とともに止まった。


 ギアとチェーンの音がやんだ。

 何一つ、音がしない。俺の乱れた呼吸音を除いて。


「準備はいいようだな」


 遠く、声がした。

 まだ少女のような、少年のような。そんなよくわからない声。反響してどこにいるのかもよくわからない。


 ぞっとした。

 真っ暗な中、俺の近くで何かが動く気配を感じた。

 左右それぞれ一人ずつ。


 俺の体に巻かれた拘束が解かれていく。

 きつく顔を覆っていた何かがはぎ取られた。


 思わず、目を強く閉じた。

 なんだ? なんの光だ? まぶたを閉じていても貫いてくる光。何かが強烈に俺を照らしている。ずっと光を受けていなかった俺の目が、それに慣れるまでに思ったよりも長い時間が必要だった。


 ゆっくりと目を開けた。

 俺の前に、理解しがたいものが広がっていた。


 アホみたいに広い、灰色のドーム状のシェルター。

 半円状のドームを、そのまま全部コンクリートで作ったような、バカでかい何もない空間。

 その無機質な灰色だけがのぞく天井に、まるで頂点がここであるとでも示すかのような大きな天使の輪――光源が、空間すべてを照らすように煌々と明かりをともしていた。ポエミ~~。


「なんだ、ここ……」


 ゆっくりと椅子から立ち上がった俺の後ろで、二人の男が立っていた。

 真っ黒な、スーツに身を包んだ黒服。少しだけ離れたまま、無言で、かつ無表情にただ俺を見ている。


「……なんなんだ!」


 俺は叫んだ。


「どういうことかちゃんと説明しろ!」

「お前は、身代わりとして呼ばれた」


 天井から、声が響いた。さっきと同じ、謎の声。

 一瞬で俺は無機質なドームの天井を振り向いていた。


 この灰色にうめつくされた半円状の空間。そのドームの頂点にある光りの環。

 はるか遠く、届きそうもないほどに高いコンクリートの天井に、光の環をくりぬくかのように切り抜きが走った。


 天井をくりぬいたような板だった。

 天使の輪のような光源の中、くりぬかれたコンクリートの天井が、ゆっくりとそのふたを落とすかのように地面まで降りてきた。


 円状のコンクリが、地面すれすれで止まった。


 その上に、金のフレームに赤色のベルベットをつけたような豪華な椅子。


 その玉座のような椅子の上に、脚を組んだ一人の少女が座っていた。


「なんだお前……」


 挑戦的な目をしていた。

 おどろくほど真っ白な長い髪。それが頭の両サイドで結ばれている。片目には意味不明すぎる真っ黒な眼帯。まだ幼さの残る顔にはあまりに不釣り合いな、黒い網のようなニーソックスが黒いブーツの上に履かれていた。


 とっても中二病~~~☆


 少女が、座ったまま無言で指を鳴らした。


 天井に空いた穴から、真っ黒な何かが落ちてきた。


 見たことのある物体だった。

 高身長で、真っ黒な長髪ポニーテールのキャラデザに、全身を覆う鎖かたびらのような黒装束のちょっと理解できないあたまのおかしいセンスをした忍者。


 モブ子だった。


「何やってんだお前……」

「また会ったな(小声)」


 少女が、手元に落ちた太い鎖を強く引いた。

 鎖が、モブ子の首につながれていた。引き上げた太い鎖が、地面にへばりついたモブ子の頭を強引に持ち上げた。


「こいつは、我々に対して到底支払えないほどの借金を抱えた。それだけならまだしも、我々の取り立てからさんざん逃げ、挙句の果てには取り立て人をPKするという暴挙に出た」

「何やってんだお前……!」

っちまったな~(小声)」


「お前は、これからこいつの連帯債務者としてゲームに参加してもらう」


 再度、歯車が動く音がドーム全体へ鳴り響いた。


 何本ものチェーンが巻き上がる音。

 よりっそう不快感を増した大量の音が、硬直したまま何をいってるのかわからない俺の耳を襲う。


 打ちっぱなしのコンクリの床に、いくつもの穴が開いた。

 下から、突き上げるように椅子が。俺のがそうだったように飛びあがってきた。


「これは……」


 人間だった。

 10はないほどの椅子に座るプレイヤーが、玉座に座る少女(中二病)を中心に放心円状に打ち上げられていた。


 方々ほうぼうから叫びのような声が上がった。自分の身に何がおこっているのかわけがわからない。そんな恐怖が声になったような怒声がドーム中に響き渡っていた。


「拘束を解け」


 大量の黒服が、縛られた人間たちへ群がるように走っていった。


「お前らには、その生存をかけたゲームをやってもらう」


 何言ってんだこいつ。


 わめきちらしていた場の叫びが、ゆっくりと、拘束が解かれていくにつれ静かになっていく。

 と同時に、解放されたプレイヤーたちから再び怒号が始まった。


 強い、衝撃音が鳴った。

 椅子に座る少女が、手に握るその太い鎖を、むき出しのコンクリへ叩きつけていた。


 衝撃音が反響する中、怒号が。その音に消し止められるかのように消えた。


 静寂の中、一面の灰色の中きらびやかに輝く玉座から少女が立ち上がった。

 手に持つ鎖を、勢いよく引きちぎり投げ捨てた。

 

「お前らに求める条件! それはこれから始まるゲームで勝つ、ただ一つ! それができなければキャラデリしてもらう!」

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