7. トップランカーたるもの晒された数でマウントとってなんぼのもんですの
「久しぶりにみたと思ったら――」
こめつぶ程度にしか見えないほどにクッソ遠いはずなのに、なんでか女の声がしっかりと聞こえてきた。VRMMOだからかな?
空を覆うように飛ぶ巨大ドラゴン。
それよりもさらに空の奥、なんか浮いてる~って程度にしか見えないはずの「金髪ロングヘアー巻き毛ヒーラー♀」が、強烈に後光をさしながら宙に浮いていた。
え? なんで飛んでるの? っていうかなんで光ってるの?
巻き毛を指でいじりながら、ヒーラーが含むように笑って口を開いた。
「アサシンと仲良く河川敷で殴り合いだなんて、MMOライフをバチクソ満喫なさってるようでなによりですわ(笑)」
「てっめぇ~!!!☆」
突然ハルが叫んだ。
米粒をにらみつけるハルが、持っていたファンシーな杖を全力で強く握り回転させた。
「ストレングス~!!!☆」
強烈な声とともに、青白い光がハルの全身を包み込んだ。
「ライズ~!!!!!☆」
ハルの全身を覆う光の圧が極限まで高まってきた。
俺は知っている。
このVIT極振り魔法使いが唱えたこの一連の魔法、これが何を示すのか俺は身をもって知っている。
今ハルの
「イン! ビン! シブル!!!!!☆」
光がはじけた。
ハルを中心に、クモの巣がはるかのように一瞬で大地に亀裂が走った。
そのへんで半透明になって転がっていた「DEAD」表示のアサシンたちが、爆風で巻き上げられるように川へ吹っ飛んでいった。っていうかリスポーンしなよ。
「ヒロ!!!!☆」
およびでございますか~?
もうなんか全く知らんけど、とにかくギュインギュイン謎の効果音を立てながら青白いオーラを身にまとうハルが俺を向いて全力で叫んだ。
「あいつめがけて私を投げて!!!!☆」
「俺はPKはちょっと……」
「早く!!!!☆」
処される。
このままいくとPKされるのは俺になりそうなので、非常に不本意ではあるが俺はハルのフードを掴み照準を絞った。
遠い。すごい遠い。
ドラゴンの巨体でさえぎられた太陽光のおかげか、かろうじて見えはするがマジであんな距離当たる気がしない。あと手元でギュインギュインうるさいしまぶしい。
「届くかわかんねえぞ……」
「いいから!!!☆」
ハルを引きずったまま俺は助走をつけた。
「うおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!!☆」
青白いオーラを放つピンク色の悪魔が俺の手から放たれた。
「おろかですわ~」
空を飛ぶヒーラー♀が、あきれたような声とともに何かをインベントリから取り出して構えた。
強烈な、鉄の塊だった。
バカでかいバットみたいな鉄の棍棒を構えたヒーラーが、飛んでくるハルをめがけて片足を浮かせながら全力フルスイングをぶち込んできた。
「このマジェスティックメイスをぶち込まれて生き残った人間はいませんわ!」
突き上げたハルのこぶしが、高速でフルスイングされたメイス(?)を直撃した。
固い金属同士が衝突する音が響いた。空の中央、こめつぶ程度にしか見えない二人から、遠くにあるナイアガラの滝が一瞬逆流して吹き上がるほどの衝撃波があたりを走った。
「おおおおおおお!!!????」
強烈な衝撃波で目を開けられない中、両腕で顔を覆うように身構えた俺の遠くで何かが勢いよく地面へ突き刺さった。
ハルだった。
天空からヒーラーに打ち返されたハルが、クレーターをつくる勢いで地面におかえりなさいされていた。
俺は、目の前の現象に唖然としていた。
「そんな……!」
遠くにいたしょーたろーが、あまりの状況に手に持っていた爆弾を落としながら言葉を漏らした。
「ハルさんが打ち返されるなんて……!!」
俺は、理解ができなかった。
あのハルが。ヒドラだろうがジャイアントだろうが一撃で
そんな唖然とする俺たちへ、小さな何かが降ってきた。
鉄の破片だった。
粉々に砕けたような鉄の破片が、あたり一面に飛散したようにこまかなきらめく何かとなって落ちてきていた。
「やりますわね……」
空に浮くヒーラー♀が静かに口を開いた。
「このラスボスですらぶち殺せるレジェンダリ装備を一撃で粉砕するなんて、そんなモンスター今まで一度も見たことありませんわ……」
モンスター扱いされとる。
「てっめぇ~……☆」
クレーターの中から起き上がったハルが、空を見ながら歯ぎしりをするかのように声を絞り出した。
「あいつは……」
俺は、無意識に口を開いていた。
「一体なんなんだ……?」
「あいつは――☆」
ハルが空に浮くヒーラーめがけて杖を突き上げた。
「バ美・
「おほめにあずかり光栄ですわ~(笑)」
満面の笑顔を浮かべたヒーラーが、根元から先がなくなった鉄の塊を適当に投げ捨てた。
「あんたみたいなクソ効率厨が、こんな中盤エリアに来るなんてどういう理屈!?☆」
「スタンプラリーですわ」
「スタンプラリー?」
思わず俺は突っ込んでいた。
「やっぱり全ボス狩りつくしてこそのトップランカーだと思うんですの。こんな中盤のエンジョイエリアになんてまったく興味ないんですけれど、ボスだけは確実にぶち殺しておかないとクエスト達成率が下がってしまってやってらんねぇんですの」
突然、となりで何かがはじける音がした。
ゴノレゴだった。
手に握られた巨大なスナイパーライフルが、宙に浮くヒーラーめがけて
「ちっ……」
硝煙の匂いの中、ゴノレゴが小さく舌打ちをした。
音のみで、何も起こらなかった。
遠く、宙に浮くヒーラーが、手のひらをゆっくりと開いた。
「おバカさんたちですわね(笑)」
弾丸が握りつぶされていた。
ヒーラーの手の中から、数発の弾丸が何事もなかったかのように圧縮されて落ちていた。
「クソハルさんならともかく、おめえら程度が何しようが私には何一つ影響ありませんわ」
「このエリアは我々のものになったのですよ!」
ジャムるおじさんが叫んだ。
「アップデートでギルド占有地が認められるようになった今、このエリアに立ち入ることは我々のみにしか許されていないのです! おうちに帰って風呂にでも入ってなさい!」
「おろかですわ~」
ヒーラーが、インベントリから何かを取り出した。
鉄の槍だった。
長い、ただの何の変哲もない鉄の槍を、大きく振りかぶるようにのけぞり構えた。
「立ち入れないからこそ、わざわざこうやって遠くから打ち込んでるんじゃありません――」
ヒーラーが、右手に構えた槍を握ったまま、大きく左足を垂直にあげた。
「のおおおおおおおおオラァッ!!!!!!!!!!!!」
「あいつ……ッ!!」
空飛ぶドラゴンから、悲鳴のような咆哮が飛んだ。
ヒーラーから勢いよく放たれた鉄の槍が、その投げつけるモーションを全く見せないまま、まるでレーザーのような勢いで光る筋となって空を飛ぶドラゴンを貫いた。
川へ着弾した光が、一瞬で周囲の水を一気に蒸発させた。霧のようになった水蒸気があたりを包む中、まるでドーナツのように形作る衝撃波が半透明になったアサシンたちを毎度のごとく吹き飛ばしていった。っていうかもう本当にリスポーンしなよ。
「断熱圧縮だッ!」
ゴノレゴが叫んだ。
「あれは魔法じゃない、物理だッ! 音速を超えた槍の先端が、大気との摩擦で発光していたんだッ!」
「は?」
なんだそれ。え?
空を飛ぶヒーラーが、満足げな顔で槍を放ったばかりの手をはたいていた。
「おかしいと思ったんですよ……」
しょーたろーが、微かに震えるような口を開いていた。
「ハルさんを打ち返した時点で気が付くべきでした……。ヒーラーにあんな攻撃魔法はないはずなんです。なんだろうってずっと思ってたんですけど、でもやっとわかりました……。あれは――」
空を飛ぶバ美・肉美が、
「ハルさんと同系列の脳筋ッ! 肉体言語系ヒーラー♀ですッ!!!」
「ぶち殺してさしあげますわ~(笑)」
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