第4話 家創造

最初のこの場所に来てから、地球換算で約1日。

相変わらず、途方もなく砂が見渡す限りある場所で、男一人と女一人。

男が軽く咳払いをした。


「とりあえず、生活の基本。家を建てよう。」


「はっ…神様の仰せのままに…」


相変わらず、跪き首を垂れるミカエルを後目に、砂に四つん這いになり、本にペンを走らせる。


「最初は小屋か何かでいいだろ」


そう言いつつも、スマートフォンに画像で保存してあった家の外観を参考に、家の設計図を書き込んでいく。


ふいにミカエルのほうを覗き込むが、俺の描いている光景は興味がないのか、目を瞑り、首を垂れたままだった。

そんなミカエルを放っておき、家の大体を描き終えた俺は、残った余白に設定を書き込む。

(あんまりファンタジー感ぶち壊しなのも嫌だけど、エアコンくらいいいよな…俺が寝る家になるんだし…)

俺はあくまで、ファンタジーを壊さないようにしつつ、内装の設定を描き込んでいく。

大体が描き終えたところで、本を閉じ、ほっと息を吐く。

暑くもないはずなのに、汗を拭い、一仕事終えたような雰囲気を醸し出す。


「お疲れ様でございます。神様」


俺が描き終えた頃を見計らってミカエルが声をかけてくる。


「まだ本当に出来上がるかどうかもわからないぞ」


俺は、再び本を開き、家を描いたページを開く。

そこには、さっきまで描かれていた家がまるまる残っていた。

とりあえず、白紙になっていないことに安堵し、ミカエルがいた場所へと目線を移動させると、そこには、俺が描いた家がまるまる建っていたのであった。


「ミカエルの時もそうだったけど、音もなく出来上がるのはちょっと怖いな…」


「そういうものでしょうか?」


「なんかドシンとか、そういう効果音あってもよくない?」


「こうかおん…」


ミカエルが効果音について何か引っかかっている様子を見せるが、そんなミカエルを放って、家を見渡す。

小屋と言っていたはずが、少し大きめの家が建っている。

外観は、スマートフォンに保存されていた中世の家っぽい外観であった。

大方イメージ通りだがだ。


「とりあえず、中に入ろうか。ミカエル」


俺はミカエルに手招きし、経った今建てた家へと入るのであった。




家の中は、まあある程度は俺の設計図通りだったであろう。

かなり質素な感じであったが、テーブルや椅子、カウンター…


「なぁ…これってさ、酒場っぽいよな」


見回し、苦笑いを浮かべる俺は辛抱堪らず、ミカエルに言う。


「神様が酒場というのであればそうなのでしょう」


ミカエルは完全に自分の意見など言わず俺に合わせる形で回答をした。

俺は溜息をつくと一番近くのテーブル席に座る。

荷物を下ろし、本をテーブルの上に置く。

ミカエルは俺が座ったのを見ても、立ったまま座ろうとしなかったので、俺の正面に座るよう促す。

同じ席に座るなど~とか硬いことを述べるが、少し面倒になり、いいから座れと言うと恐縮しながらも席につく。


「この分だと二階は宿っぽい感じになってるんだろうな」


俺は設計図を眺めながら、どうしてこんな資料を参考にしたんだろうと今更後悔する。

確かに異世界ファンタジーの資料はスマートフォンの中にたくさんあったが、一般民家の資料は、保存していなかった。だから仕方がないと、自分に言い訳をする。

ミカエルは俺の呟きに対し、何か答えそうな素振りをするが、俺が独り言を言っているんだろうと察すると、黙り、俺の言葉を待つようにじっとしていた。

そんなミカエルを見かねて、俺が話しかける。


「あのさ…そんな硬い感じやめようよ」


「硬い感じと仰られても、私はこれが普通です」


「そんな話し方だと窮屈だから、楽に話してよ。本来だったらもっと柔らかい感じっていうか…」


俺は、思わずミカエルのページを開き、設定の部分を見直す。


(俺、何回このページ見直すんだろう…)


そんな気持ちになりつつも、書かれている文字をじっと見つめる。

信仰心が高いとは書いてあるが、そこまで硬い性格にしたつもりはない。


「―それは命令でございますか…」


「命令…ねぇ…」


命令には忠実と設定した限り、こいつはそれで従うんだろうが、命令っていうのはあんまり好きになれない。


「まあ命令っていうかお願いっていうか…」


「左様でございますか…」


ミカエルは俺の言ったことに頭を悩ませる。

こんなことなら、もっと頭の柔らかい子にしておけばよかったかなぁ。

回答が遅いミカエルに、暇を持て余した俺は、窓の外を眺める。

相変わらず、日が照っており、外は砂しか見えない。

ミカエルはずっと答えあぐねているので、テーブルの上に置いてある本をぱらぱらと捲る。相変わらず白紙が多いその本には、おにぎりの絵と設定。ミカエルの絵と設定しかまだ残っていない。

テーブルに置いた肘にほっぺたを乗せると、俺はぼーっとした頭でページを捲り、ペンを持ち、さらさらとなんとなく描き始める。


(なんとなーく、こう…野蛮っていうか…荒々しさっていうか気楽さっていうかさ…そういうのがあってもいいよなぁミカエルにはさ…)


ぼーっとしつつ、女の子の絵を描いていってしまう。


(…こういうなんか元気っぽい感じの子がいいわ。髪の色は深い青っぽい感じで、顔はまあ、可愛くしないといけないよなぁ…ミカエルが超絶美人なわけだしさ…でもミカエルは垂れ目だし…ちょっと釣り目のほうが俺の好みだわ)


いつもキャラを創る時に考えていることを肘をつきながら描く。


(まあ、ミカエルが天使っていう設定なんだから、2人目も天使なのが妥当か…

でも、ミカエルとはあんまり仲良くないほうが盛り上がるよなぁ漫画にするのであればさ。)


漫画を描くつもりでもないのに、設定だけが先走る。いつもの悪い癖だ。


(ハーレムが作りたいわけじゃないけど、従順ではあったほうがいいな。俺、神様なわけだし。…漫画を描く時に扱いやすいし。あーあと、胸は小さめにしよう。ミカエルよりも少しだけ。)


服の作りをミカエルから参考にしつつ、少し鎧も着ける。


(戦闘力は高いってことにしておこう。近距離戦闘型だな。こう…武器に魔法とか纏わりつかせる感じのタイプにして…あーそういえばミカエルの時もそうだったけど、天使の輪みたいの描いてねぇわ。まあいいか)


大方描き終えると、本を閉じる。


「で、ミカエルは硬い…ん?」


ミカエルに話しかけたつもりで顔を上げた俺は、いつの間にかミカエルの後ろにいた、青髪の女の子にびっくりする。


俺と目が合うと、青髪の女の子は俺に跪き、少し大きめの声を上げる。


「ガブリエル…只今参上致しました!」


俺はまた、とんでもない過ちをしてしまったのかもしれない。











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